研究課題/領域番号 |
17K05408
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大川 祐司 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (10466823)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 弦の場の理論 |
研究実績の概要 |
AdS/CFT対応は、重力を含まない場の量子論によって重力を含む超弦理論の非摂動的な定式化を与えるものであると捉えることもでき、典型的な例ではDブレーン上の理論の低エネルギー極限を取ることで説明される。このAdS/CFT対応が成り立つメカニズムを解明するためには低エネルギー極限を取る前の理論を定式化することが有効であると考えられ、素朴には開弦と閉弦を両方含む理論になって非摂動的な定式化は困難であるように思われるが、ゲージ不変演算子のソース項を含む開弦の場の理論で完全な記述になる可能性がある。
このシナリオでは開弦の場の理論を量子的に取り扱うことが本質的であり、技術的に困難であるが、ホモトピー代数を用いて作用を記述した場合、作用と散乱振幅の間には普遍的な関係式が存在し、通常の場の量子論での計算から開弦の場の理論の量子論についての知見が得られることが期待される。
ホモトピー代数を用いた通常の場の量子論の記述に関しては、最も簡単なスカラー場の理論の摂動論においてさえ one-loop 近似での繰り込みを完全に実行した例はない。そのため、前述した動機に基づき今年度は学部学生である渋谷氏との共同研究でホモトピー代数を用いたスカラー場の理論の散乱振幅の one-loop 近似での計算を行った。その結果、場の量子論の教科書に書かれている結果を完全に再現することを確認し、その過程で one-particle irreducible 有効作用による表現のホモトピー代数を用いた記述方法が明らかになり、論文を執筆中である。さらにスカラー場の理論について散乱振幅だけではなく相関関数もホモトピー代数を用いて記述できることが明らかになり、研究成果をまとめて arXiv に投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は研究が大きく進展したが、これまで新型コロナウイルス感染症の感染拡大への対応のための大学運営業務で研究時間を大幅に削減してきた分を挽回するには至らず、特に論文の執筆が滞ってしまっている。
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今後の研究の推進方策 |
これまで障害となっていた問題が解消されたので、このような段階の研究を推進させるためには共同研究の規模を拡大することが有効であると考えられる。そのため、大学院生との共同研究に加えてホモトピー代数に関して高度な専門知識を持つ研究者との共同研究を始める予定である。また、2019年度の夏の研究会を最後に対面での研究会に参加しておらず、最新の研究成果の共有が十分にできていないため、国内外の対面での研究会に積極的に参加する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
現地開催が延期になっていた弦の場の理論の分野の国際研究会が2022年度になってようやく開催できる見込みになり、そのための海外旅費を計上している。また、今年度の研究成果は今年度の日本物理学会での発表に間に合わなかったため、来年度の日本物理学会が現地開催になることを見込んで国内旅費を計上している。
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