研究課題/領域番号 |
17K05410
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
淺賀 岳彦 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (70419993)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ニュートリノ / 宇宙バリオン数 / 宇宙暗黒物質 |
研究実績の概要 |
標準模型では宇宙暗黒物質、および宇宙バリオン数の起源を説明することはできず、これらの問題解明は物理学最重要課題の一つである。本研究では これらの問題を解決するために電弱スケールより軽い右巻きニュートリノを導入した模型を検討している。この模型は、標準模型の抱えるもう一つの問題、ニュートリノ質量の起源も同時に説明するため、広く注目を集めている。
今年度は、長寿命を持つ右巻きニュートリノが暗黒物質になる可能性ついて検討した。これまでは、アクティブニュートリノとの混合を通じた生成過程が広く議論されてきた。しかし、宇宙論的な観測からこのシナリオは厳しく制限されており、極めて限定的な場合のみ有効であることが知られている。そこで、宇宙暗黒物質の別の生成機構について検討を進めた。特に、ニュートリノ湯川相互作用による付加的なポテンシャルに起因した世代混合宇宙によって、重い右巻きニュートリノから宇宙暗黒物質が生成される可能性について検討を行った。その結果、インフレーションの再加熱温度が十分高く、さらに重い右巻きニュートリノの質量スケールが十分高い場合には、この生成過程により現在の宇宙暗黒物質の残存量を説明することができることが判明した。
さらに、宇宙暗黒物質に対する地上実験での直接検証法についても検討を進めた。特に、円形加速されたイオンからのニュートリノペアビームを用いた探索について研究した。暗黒物質となる右巻きニュートリノの生成について、その質量を無視した際の生成量の評価は終了した。今後は質量を顧慮した生成率を求める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
宇宙暗黒物質に関する研究については、右巻きニュートリノの残存量を説明する新しいシナリオを見出した。宇宙初期の高温状態では右巻きニュートリノは熱浴中の粒子と相互作用し、付加的なポテンシャルを獲得する。このポテンシャルによる右巻きニュートリノ世代間混合を通じて暗黒物質となる右巻きニュートリノが生成される。現在この研究成果をまとめている最中であり、近日中に論文を発表する予定である。
この結果をもとに、暗黒物質探索方法について現在研究を進めている。特に、円形加速されたニュートリノペアビームを用いた探索について検討している。このビームによりニュートリノと反ニュートリノの対が非常に高いレートで生成できることが提唱された。そこで我々はこのビームを想定し、ニュートリノと暗黒物質との混合を通じた生成機構について調べている。暗黒物質の生成量については、その質量を無視した際の予備的結果を得た。現在、質量を考慮した生成率の計算に取り組んでいる。
一方、本研究のもう一つの課題である宇宙バリオン数の起源解明については、研究がやや遅れている。右巻きニュートリノの質量が十分に軽い場合、ヒッグス粒子の崩壊によって右巻きニュートリノが生成される効果、さらにこの崩壊過程によりレプトン数が生成される効果を取り入れる必要があることが近年指摘された。しかし、これらの効果の存在自身も含めて現在様々な議論がされている。そこで、我々もこれらの効果を正確に評価する手法を新たに考案しているため、当初の研究計画に対して遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
宇宙暗黒物質の生成の研究については一定の成果が得られたため、今後はこの粒子の地上実験での検証可能性について重点を置いて研究を進める。【現在までの進捗状況】で述べたように、ニュートリノペアビー ムを用いた暗黒物質探索について研究する。最初に、暗黒物質の生成量を評価する基礎理論の定式化を行う。次に、このビ ームから生成された暗黒物質の存在を示す実験的特徴を検討する。現在想定しているのは、暗黒物質と対に生成されたニュートリノのエネルギー分布を求め、暗黒物質による分布の変更点を把握する。暗黒物質は通常のニュートリノよりは重く無視できない質量をもつ。この質量の存在によりエネルギーに閾値が現れ、エネルギー分布にkink構造が生じると予想される。このkink構造の検証可能性を検討する。
一方、宇宙バリオン数の起源解明については、ヒッグス粒子の崩壊による新しい効果を取り入れて解析を行う。そして、宇宙バリオン数を説明する右巻きニュートリノの持つ性質を明らかにする。さらに、考察している生成機構の鍵となる右巻きニュートリノの世代間振動現象を実験的に確かめる方法についても検討する。特に、ILC計画やFCC計画での高エネルギー電子を用いたビームダンプ実験について研究する。これらの実験で想定される電子と標的との相互作用から右巻きニュートリノが生成され、ビームダンプ下流に置かれた検出器内での右巻きニュートリノ崩壊を用い、世代間振動現象を検出することを目指す。さらに、世代間振動現象をレプトンモードと反レプトンモードで測定することにより右巻きニュートリノによるCP対称性の破れを測定することも検討する。
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