研究課題/領域番号 |
17K05421
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
関 穣慶 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 数学研究所専任研究所員 (60373320)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | エンタングルメント・エントロピー / 弾性散乱 / 陽子半径 |
研究実績の概要 |
高エネルギー弾性散乱における2粒子終状態のエンタングルメント・エントロピーを表す公式がPeschanski-Sekiによって与えられた。我々は、実際の高エネルギー加速器実験で得られたデータを基に、この公式からエンタングルメント・エントロピーを具体的に評価しようと試みた。我々は、LHCやTevatronなどによって豊富なデータがある陽子-陽子散乱に注目した。Peschanski-Sekiの公式は、散乱断面積などの物理量と、(最大の衝突径数に対応する)cut-offパラメータで表されている。そこで、まず、我々は十分に大きなcut-offを設定し、実験データからエンタングルメント・エントロピーを計算した。その結果、エンタングルメント・エントロピーは入射粒子の重心系エネルギーに従って増加していることがわかった。 さらに、このcut-offの依存性を逆手にとって、我々は陽子の有効半径を評価することを提案した。衝突径数が小さいと、非弾性散乱チャンネルが大きく寄与し、一方、衝突径数が非常に大きいと、ほとんど相互作用せず、エンタングルメントを稼がないと予想できる。我々は、最大衝突径数によってエンタングルメント・エントロピーにピークが現れると考え、そのピークでの最大衝突係数を陽子の有効半径(の2倍)と関係付けた。実験データを用いてこの有効半径を計算したところ、高エネルギーでは、有効半径は約1fmとなった。この有効半径は入射エネルギーに従って若干増加しているが、ほぼ一定の値となった。 一般に、陽子の半径は今日でさえ未解明の問題である。我々の結果は、他の提案による陽子の半径と大きくは隔たっていない。我々の提案したエンタングルメントを用いた陽子半径の解析は、この問題に新しい見方を与える可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
海外の研究者(フランス)との共同研究であるため、コミュニケーションに時間がかかった。しかし、2017年度末に彼を日本へ招聘したことで研究を大きく進展させることができたので、2018年度中の論文発表が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、散乱におけるエンタングルメントについて、粒子、弦など様々な角度から研究を進める。 また、粒子散乱のエンタングルメント・エントロピーについては、当初予定していなかったが、共同研究者とcut-offに関する議論を深めていく中で、粒子散乱のエンタングルメント・エントロピーの公式を改善する新しい方法に気づいたので、それも今後の研究に組み込んで行く。
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次年度使用額が生じた理由 |
外国人共同研究者の招聘日数が若干短くなったことや、日程の都合上で出張を短縮したことのために、次年度使用額が生じた。翌年度は、共同研究の推進や新しい情報収集のための積極的な出張、計算機関係の研究環境の充実に使用することを計画している。
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