研究課題/領域番号 |
17K05423
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
橋本 道雄 中部大学, 工学部, 准教授 (70573046)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ヒッグス粒子 / トップクォーク |
研究実績の概要 |
トップクォークと複合ヒッグス粒子の結合に関する形状因子の効果(off-shell 効果)をみるためには、まず、on-shell でのトップ湯川結合について押さえておく必要がある。一般に、複合ヒッグス模型では、素粒子標準模型 (SM) からのズレが期待される。実際、CERN Large Hadron Collider (LHC) の実験では、トップ湯川結合について報告がなされており、中心値だけみれば multi-lepton channel でsignal strength が SM の1.6倍になっている。この結果はまだ確定的と言えるものではないが、類似の結果は、LHC で以前から報告されており、一部の研究者によって、それを説明する模型の探索が行われてきた。 そこで、筆者は、複合ヒッグス模型で現れると考えられている vector-like quark (VLQ) を用いて、on-shell でのトップ湯川結合がSM よりも大きくなる可能性について研究を行った。人気のある多くの複合ヒッグス模型では、トップ湯川結合はSM より小さくなる傾向があるが、左巻きトップクォークと同じ電荷をもつ VLQ を複数導入すれば、トップ湯川結合が SM よりも大きくでき、さらに、一番軽い VLQ の湯川結合は負にできるので、gluon fusion によるヒッグス粒子生成の実験結果と矛盾することない模型を構築することに成功した。また、この場合、ヒッグス粒子を2つ生成する過程にも影響を及ぼすことが分かった。 これらの結果は、``Revisiting vectorlike quark models with enhanced top Yukawa coupling'' としてまとめられ、アメリカ物理学会誌の Physical Review D96, p.035020 (2017) に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の研究実績の概要にも挙げた通り、トップ湯川結合の形状因子を研究する上で、押さえておくべき重要な on-shell でのトップ湯川結合について、現在の LHC 実験で示唆されているようにトップ湯川結合が SM よりも大きい場合にはどのような VLQ 模型が望ましいか、今後の研究の指針の1つとなる論文``Revisiting vectorlike quark models with enhanced top Yukawa coupling'' (Physical Review D96, p.035020 (2017)) にまとめあげることに成功した。 トップ湯川結合に関して、multi-lepton channel で signal strength が SM の1.6倍になっているという LHC の ATLAS グループからの報告は、昨年末のことで、論文が出版された時期よりはずいぶん後になっているが、LHC で以前から報告されていたことと矛盾はなく、トップ湯川結合に SM からのズレはあり得るとの期待は消え去ることはなく、ますます強くなっている。LHC 実験が Run 1 から Run 2 へと進んでいく中で、実験結果を説明できるパラメーター領域が極端に少なくなってしまい、意義を失ってしまう模型も多い中で、論文で示した方向性は実験的検証という点でも間違ってはおらず、この研究を継続していく意義は十二分にある。 これから、さらに、トップ湯川結合の形状因子、そして、複合ヒッグス粒子と弱ボソンとの結合に関する形状因子など、これから進むべき研究課題があり、着々と研究が進行していることから、研究の進捗状況は、おおむね順調と言える。
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今後の研究の推進方策 |
トップ湯川結合を SM よりも大きくするような VLQ 模型については、上記に示したように論文にまとめあげることに成功した。今後は、そのような VLQ 模型を UV complete な複合ヒッグス模型から如何にして導出できるかを研究する必要がある。これによって、トップ湯川結合の形状因子も、核子-核子-パイ中間子結合との類推から、あぶり出されてくるハズである。この研究は、現在進行形で進めているところである。さらに、複合ヒッグス粒子と弱ボソンとの結合に関する形状因子についても、目下、研究を遂行中であり、近々、論文にまとめることが出来るのではないかと考えている。 最終的には、これらの形状因子を如何にしてコライダー実験で検証できるかが目標となる。現在計画されている high luminocity LHC (HL-LHC) が主なターゲットである。これについても、ヒッグス粒子の形状因子という観点からの研究ではないが、本研究にうまく活用できるのではないかという文献をいくつか見つけている。また、HL-LHC に向けた研究として、アドホック的にトップ湯川結合の形状因子を入れてみたらどうなるかの試算を行ったグループがアメリカに現れた。(D.Gonqalves, T.Han, S.Mukhopadhyay, ArXiv: 1803.09751) 素粒子研究は常に激しい国際競争にさらされており、うかうかしていると先を越されてしまう。論文にできそうな所から、うまくまとめあげて次々と論文を発表していくつもりである。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費の主な支出であるコンピューターとバックアップ用ストレージ・ソフトウェア・コンピューター周辺機器については予定通りであったが、昨年度は大学の業務等でいろいろと忙しくて、研究発表を行う時間がなかなかとれず、国内旅費として計上していた予算をおよそ半分程度しか使うことができなかった。 このため、次年度使用額が生じたのだが、本年度は国内での研究発表とともに、フランスなどの海外へも渡航して研究発表を行う予定であり、繰り越し分も問題なく使用することができると考えている。
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