研究課題
2017年度は行列模型の数値解析に関して、以下の3つの成果を得ることが出来た。ウィック回転をしないローレンツ型のIKKT行列模型では、宇宙膨張の振る舞いを調べるためには大きな行列の数値計算が要求される。2017年度は行列模型の繰り込み群の考え方を用いて空間が膨張した後の時間発展を効率よく解析するための方法を考案し、数値計算によってこの方法論の妥当性について調べた。次に、ウィック回転をしたユークリッド型のIKKT行列模型については、フェルミオンを積分して得られるパフィアンが複素数であるため、数値的に扱う上で符号問題に直面する。近年、符号問題のある系を解析する手段である複素ランジュバン法が経路積分と等価な正しい結論を与えるための条件に関して、理解が急速に発展した。IKKT行列模型は10次元で定義されるが、簡単化した6次元の模型について複素ランジュバン法を用いて数値解析を行った。SO(6)回転対称性の破れによる時空の力学的生成について調べ、ガウス展開法による解析計算で得られた結果と比較検討を行った。また、有限温度のゲージ理論のGross-Witten-Wadia(GWW)相転移についても解析を行った。超対称性を持ったゲージ理論に関して、低温領域のゲージ場の配位を数値的に調べることで、閉じ込め・非閉じ込め相転移が存在することの示唆を与えた。また、超対称性を持った場合と、フェルミオンを含まないボソンだけから成る場合の有限温度のゲージ理論に、ウィルソンループから成る化学ポテンシャルを付け加えた模型について数値シミュレーションを行った。これにより、温度と化学ポテンシャルの係数の2つのパラメーターを変えたときの、3次のGWW型の閉じ込め・非閉じ込め相転移の相転移点を数値的に調べて相図の比較検討を行った。
2: おおむね順調に進展している
2017年度は、行列模型の数値計算の研究で3本の論文を発表し、いずれも学術雑誌に掲載された。2017年度のIKKT行列模型の研究で得られた成果は、私達の住む4次元時空がどのように力学的に生成されたかという根源的な問題を解決するうえで重要な役割を果たすものである。また、有限温度のゲージ理論の研究についても、ゲージ重力対応を通してブラックホールの相転移を理解するうえで重要な知見が得られたと考えている。
2018年度の研究としては、複素ランジュバン法を用いて次の2つの問題に取り組みたいと考えている。一つはユークリッド型IKKT模型に於ける時空の力学的生成の研究である。2017年度には簡単化した6次元の模型に対する解析を行ったが、これを10次元のIKKT模型に適用する予定である。6次元と比べて10次元の場合は数値計算のコストが増大するが、効率的な数値計算方法を模索するなどして、研究を推進したいと考えている。また、有限温度のゲージ理論でも、符号問題を伴う化学ポテンシャルや、超対称性を持ったゲージ理論で符号問題を伴う場合を解析することは興味深い問題である。これによって、ゲージ理論の相転移の構造に関して新しい知見が得られると期待される。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
Journal of High Energy Physics
巻: 02(2018)151 ページ: N/A
10.1007/JHEP02(2018)151
Progress of Theoretical and Experimental Physics
巻: no. 8, 083B03 ページ: N/A
doi.org/10.1093/ptep/ptx106
巻: 09(2017)071 ページ: N/A
doi.org/10.1007/JHEP09(2017)071