超弦理論は空間9次元+時間1次元から成る10次元時空でのみ整合性を持って定義され、私達の住んでいる空間3次元+時間1次元の4次元時空は空間の残りの6次元がコンパクト化されたものだと考えられている。1996年に提唱されたIKKT行列模型は超弦理論の摂動論に依らない定式化の有力な候補である。IKKT行列模型は10次元の超対称性ヤンミルズ理論を0次元に次元還元した模型であり、ボゾンのエルミート行列の固有値が時空として解釈され、どのような時空が実現するかが模型の力学的性質によって決定される。
時間方向をウィック回転しないローレンツ型のIKKT行列模型については、フェルミオンのパフィアンから来る符号問題はないがe^{iS}(Sは作用)から来る符号問題がある。2011年にはe^{iS}の符号問題を差し挟まない近似を用いて数値シミュレーションがなされた。この一連の研究によって、9次元空間のうち3次元が、時間とともに指数関数的に膨張することが分かった。この結果は宇宙の始まりからインフレーションまでの時期に対応している。
その後の研究で3次元空間の構造を精査したところ、空洞な球殻上の構造であることが分かった。私達はこれを符号問題を差し挟まない近似に原因があると捉え、e^{iS}の符号問題の複素ランジュバン法による取扱いに着手した。その結果、連続的な空間構造の新しい相の存在を発見した。期間終了後の2021年度以降も、この新しい相に於ける空間の対称性の3次元への自発的破れに関して研究を継続中である。
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