研究課題/領域番号 |
17K05427
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
夏梅 誠 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 研究機関講師 (90311125)
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研究分担者 |
岡村 隆 関西学院大学, 理工学部, 教授 (30351737)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 素粒子論 / 超弦理論 / AdS/CFT双対性 / ブラックホール / 非平衡物理 / ホログラフィック超伝導 |
研究実績の概要 |
本研究では,超弦理論のAdS/CFT双対性を強結合の非平衡系に応用することを目的としている.このような理論的計算はこれまで困難であった.AdS/CFTによると,強結合の場の理論はブラックホールと等価だとされ,ブラックホールによる強結合物理の解析が可能になった.本年度は「ホログラフィック超伝導」(HSC)を用いた2つのテーマで研究を行なった.HSCは,AdS/CFTで登場する系の一つで,超伝導を表す. (1)リフシッツ時空におけるHSC解析解:HSCは,物質場のある様々な重力系で起こる.超伝導は低温でのロバストな現象であり,このことは自然である.また,HSCの応用範囲は広く,臨界現象,量子乱流など,様々な研究に用いられている.しかし,HSCは物質場を含め多くの場を含み,それらが非線形に結合しているため,解くことが難しい.このため多くの結果は数値的にしかわかっていない. 我々は「リフシッツ時空」と呼ばれる一群のブラックホール時空でのHSCの解析解を発見した.そしてこの解を用いて,その基礎的な性質を調べあげた:1.自由エネルギー,2.ロンドン方程式の導出,3.秩序変数応答関数,4.全ての静的臨界指数と動的臨界指数,5.外部磁場を加えた場合など. (2)AdS/CFTによるKibble-Zurek機構(KZ):KZ機構も,HSCの応用例の一つである.二次相転移を起こす系を急冷すると,位相欠陥が自発的に生成される.超伝導では渦糸がそれにあたる.系を急冷することで対称性が破れるが,空間的に隔たった領域は違う状態を取りうるからである.相関が保たれる典型的なサイズは,スケール則に従う.このスケール則をAdS/CFTの立場から,解析的に比較的容易な議論で導出した.(本テーマは以前の補助金からの継続研究)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
リフシッツ時空でのHSCの研究では,当初動的臨界現象の解析のみを予定していた.しかし,解析解を発見したことで,方針を変更して,解析解を使って系のあらゆる基礎的な性質を解析的に調べ上げた.この点で,計画変更はあったものの,大きな成果を収めることができた.また,交付申請書に記載した成果はあげることができたので,概ね順調に進展したと言える.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,AdS/CFTを用いた非平衡現象,特に臨界現象のようなスケール則を伴う諸現象を扱う.このような研究は以前から存在するが,主として数値計算に基づくものであり,結果に対する見通しが良くなかった.そこで,解析的に比較的容易な議論で導出し,質的理解の向上を目指す.「実績の概要」で述べたKZ機構のスケール則導出は,その一例である. 通常の場の理論では,このスケール則は系の対称性を用いて理解することができる.AdS/CFTでは,重力系を解くことで強結合場の理論を解く.したがって,AdS/CFTでも,本来重力系の対称性からスケール則を理解できるはずである.しかし,重力系の場合,その対称性はあらわには見えず,emergentな対称性であることが判明した. 交付申請書に記載した通り,この手法をスケール則を伴う各種の系に応用する.まずは動的臨界現象を調べる.これはKZ機構と密接な関係がある.臨界現象ではスケール則が現れるが,これは動的な場合も同様で,秩序変数の緩和時間はスケール則に従う.そのベキ,動的臨界指数の値によって,動的ユニバーサリティ・クラスは分類されている.H29年度の研究は,そのうちモデルAのクラスに対する研究である.今後,AdS/CFTで他のクラスに属するモデルを考え,それらのクラスに対しても解析的理解を目指す. なお,本研究のようなAdS/CFTの応用研究は,近年進展が著しく,新たな進展が起こる可能性も高い.そこで分野の発展とともに,適宜新しい研究課題も検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:H30年度に予定になかった国際会議が開催されることになり,その会議に参加するため一部使用計画を見直し,また物品の調達をとりあえず保留としたため. 使用計画:上記国際会議に参加し,また保留した物品の調達をする.
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