研究課題
現在、クォークとレプトンのフレーバー物理に関する複数の実験データ (B中間子のセミレプトニック崩壊、カビボ・小林・益川 (CKM) 行列要素測定、ミューオン異常磁気能率等) に標準模型における理論値からのズレがあることが報告されている。2019年度はそれらのズレから標準模型を超えるテラスケールの新物理の情報を得ることを目的として以下の研究を進めた。(1) 統合解析ツール HEPfit version 1.0 を作成し、オープンソースコードとしてホームページ上で公開した。そして HEPfit の仕様および使用方法についてまとめた論文を発表した。HEPfit を用いることにより、フレーバー物理、電弱精密測定、ヒッグス粒子崩壊等の様々な観測量を、様々な新物理模型において統合的に解析することが可能である。(2) ミューオン異常磁気能率および CKM 行列要素 (Vud、Vus) の現在の実験値は標準模型の理論値と一致しておらず、ミューオンの相互作用に新物理の寄与があることが示唆されている。標準模型のレプトン以外の新たなレプトンを導入することにより、上記のズレを同時に説明可能であることを示した。この研究の電弱精密測定に関する解析には HEPfit を用いた。(3) 45次元表現スカラー粒子を持つSU(5)大統一模型に関する研究を進めた。45次元表現に含まれるスカラーレプトクォークの効果でB中間子のセミレプトニック崩壊における標準模型からのズレを説明することを目指して、研究を進行中である。
3: やや遅れている
本研究の目的の一つである新物理模型の研究について当初計画よりやや遅れている。これは研究期間中にフレーバー実験に重要な進展があったためである。最新の実験データは従来考えられていなかったレプトンフレーバー普遍性を破る新しい相互作用の存在を強く示唆している。これを受けて本研究では軽いレプトクォークを含む大統一模型を新たに構築し、その研究を進めている。
2020年度は、45次元表現スカラー粒子を含むSU(5)大統一模型に関する研究を更に進める。特に軽いレプトクォークがB中間子崩壊等に与える影響について統合解析を行う。またフレーバー物理の種々の実験データと標準模型における理論値の間のズレを説明可能な他の新物理模型の構築も目指して研究を進めていく。研究成果は随時論文にまとめ、学会、国際会議等で発表する。
前年度からの余剰金があったことに加え、新型コロナウイルス感染症の流行により出席を予定していた学会が中止となったために余剰金が生じた。これは次年度に主に旅費として使用する予定である。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
The European Physical Journal C
巻: 80 ページ: 456 (31 pages)
10.1140/epjc/s10052-020-7904-z