研究課題/領域番号 |
17K05432
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小野 章 東北大学, 理学研究科, 助教 (20281959)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | クラスター / パウリブロッキング / 輸送模型 / π中間子生成 / 反対称化分子動力学 / 重イオン衝突 |
研究実績の概要 |
重イオン衝突では,広いエネルギー領域での諸課題において,クラスター相関が本質的な役割を果たす.当該年度の反対称化分子動力学(AMD)に基づいた研究では,特に,複数のクラスターを結合させてLiやBeなどの軽い核を作る相関の役割が明らかになった.95 MeV/uでの12C+12Cでは,クラスター間の相関を考慮する計算により,質量数9以下の原子核がほぼ基底状態に近い状態で直接生成される場合があることがわかり,これにより生成物のスペクトルや角分布の実験値をよく再現できた.一方,理研TCP実験に対応する270 MeV/uのSn+Snでは,広範囲の衝突径数での計算を実験の情報と比較したところ,Heやそれより重いフラグメントが多すぎることが分かってきた.これらはクラスター相関の強さに関する重要な情報であり,今後の研究に反映させたい. 輸送模型比較の国際共同研究では,二核子衝突のみの箱計算の結果がまとまった.模型間の結果の違いのほとんどが,模型の特性や採用した処方によるものとして理解できた.特にパウリブロッキングの破れについては,確率的な手法を採用する輸送模型の本質的な問題として認識された.また,π中間子を含む箱計算では,当初模型間の相違が非常に大きかったものの,結果の分析が進むにつれて収束してきた.特に,反応速度方程式や熱平衡の理論値の計算が可能となり,多くの模型が採用する処方ではπ+Nの大きな断面積を扱う上で問題があることが判明した.一方,我々が用いるJAMでは,ほぼ正解が得られていることが分かった. 我々のAMD+JAMの枠組みでは,従来はΔ共鳴生成の際のパウリブロッキングはJAMの中で行なっていたが,AMDでの正確な分布関数を用いることで,模型比較で明らかになった本質的な問題を回避できるという着想を得た.その計算を実現し,理研TCP実験の系での荷電π中間子比に有意な改善が得られた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
輸送模型比較では,衝突判定処方の詳細な分析や反応速度方程式や熱平衡の計算を研究代表者が中心となって行い,それにより,模型間の結果の相違のほとんどを理解できる状況となり,しかも我々が採用するJAMでほぼ正解が得られていたことは,当初の予想以上である.また,12C+12Cでの成果も当初は予想していなかった.一方,理研TPC実験に対応する重イオン衝突の計算では,高密度対称エネルギーに制限を与えることはできていない.荷電π中間子の実験データが公表されるまでの間に,複数の観測量を無矛盾に理解するための準備を進めている.
|
今後の研究の推進方策 |
基本的には交付申請書に記載の計画のように今後の研究を推進する予定である.これまでの研究を継続・発展させるとともに,数十MeV/uでのクラスター・フラグメント生成機構や対称エネルギー効果の解明に取り組む. ただし,この1年間の研究による認識として,重イオン衝突におけるストッピング(3次元運動量分布が平衡化・等方化する度合い)を系統的に理解することが基礎として重要であると考えている.そこで,クラスターやフラグメントの生成量とともにストッピングにも注意し,当初の計画では平成31年度に実施するとしている系統的な計算の一部を前倒しして行う.一方,Δ共鳴やπ中間子のポテンシャルの導入は時間をかけて行うこととしたい. また,輸送模型比較の国際共同研究は,今後も継続されると思われる.重イオン衝突の状況でのπ中間子生成での比較や,クラスターやフラグメント生成での比較へと進展するように努力したい.
|
次年度使用額が生じた理由 |
おおよそ予定どおりであったが,次年度に国際会議に出席の予定が複数あるので,そのために使用することとしたい.
|