研究課題
重イオン衝突では,広いエネルギー領域での諸課題において,クラスター相関が本質的な役割を果たす.前年度より継続している反対称化分子動力学(AMD)に基づいた研究では,重イオン衝突におけるストッピング(運動量分布の等方化)とクラスター相関の統一的研究をさらに進め,実験研究者とも協力して,理研TPC実験のデータとの比較も進めた.その結果,大局的な現象の記述を超えた詳細の分析により,クラスターを主に側方へ生成する特殊な過程の存在が明らかになってきた.これまで考えてきた過程に加え,多段階のクラスター生成過程が必要との新たな着想が得られた.輸送模型比較の国際共同研究は,小野が中心となって取りまとめた箱の中のπ中間子生成についての比較が成功裏に一段落し,その成果を活かしつつ重イオン衝突での比較へと発展した.現時点での結果では,中性子過剰な重イオン衝突での荷電π中間子比(負電荷のπと正電荷のπの生成個数の比)が,計算で用いるΔ共鳴やπ中間子に対するポテンシャルやそれに関連するΔ生成閾値の変化に強く依存していることがわかってきた.そのため,我々独自の枠組みであるAMD+JAMの枠組みでもΔやπのポテンシャルを精密に取り入れることが急務となり,コード開発に着手し,現在テスト計算が進展中である.元のJAMコードを修正してポテンシャルを入れるのは困難と判断し,JAMの利点を損なわない形でポテンシャル入りの新たなコード(sJAM)を開発した.このほか,パウリブロッキングが荷電π中間子比に及ぼす影響について,成果がまとまった.理研TPC実験より低い核子当たり数十MeVのエネルギー領域については,イタリアの実験グループとの共同研究が進展した.クラスター生成や破砕片生成に関する成果が出版されたほか,対称エネルギーの密度依存性に直接関わる研究も進展中である.
2: おおむね順調に進展している
研究課題うちのいくつかについては結果がまとまってきており,その成果により次に取り組むべき重要課題が明らかになっている.このような研究の進展は当初より期待していたとおりであり,また,多段階のクラスター生成過程の必要性の着想などは当初は想定を超えたものとも言える.
最重要課題としては,Δやπのポテンシャルを取り入れたAMD+sJAMによる計算を実現し,対称エネルギーと荷電π中間子比との関係についての定量的な結論を目指す.また,それと並行して,AMDにおいて多段階のクラスター生成を取り入れる拡張を行う.これらにより,クラスターからπ中間子生成までを含めた高水準の総合的な理解を得る.この成果のもとに,クラスターを考慮した箱の中の熱平衡計算も実施する予定である.
2019年度はアジアでの研究発表や打合せの機会が多かったのに対し,2020年度はすでにフランスで開催予定の国際会議に招待されているなど,欧州へ複数回の出張が必要となる見込みとなった.したがって,次年度使用額はいまのところ2020年度に必要な旅費として使用する予定である.
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すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件)
Phys. Rev. C
巻: 101 ページ: 034607-1~9
10.1103/PhysRevC.101.034607
巻: 101 ページ: 034607-1~12
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巻: 99 ページ: 064616-1~16
10.1103/PhysRevC.99.064616
巻: 100 ページ: 044617-1~35
10.1103/PhysRevC.100.044617