研究課題/領域番号 |
17K05432
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小野 章 東北大学, 理学研究科, 助教 (20281959)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | クラスター / 対称エネルギー / 重イオン衝突 / 波束 / 位相空間 / 反対称化分子動力学 |
研究実績の概要 |
重イオン衝突では、広いエネルギー領域で、クラスター相関が本質的な役割を果たす。従来より継続している反対称化分子動力学(AMD)の研究では、前年度に理研TPC実験(入射エネルギー270 MeV/nucleon)でのクラスター生成量やラピディティ分布との比較を行い、三重陽子と陽子の生成比(t/p)が核物質の対称エネルギーの密度依存性が強く反映されていることを示した。この年度には、3Heや4Heについての比較も含め、さらに横運動量分布やフローについても分析を進めた。その結果、前年度にも気づいていたことであるが、重心系で見て低速部分(つまり中間的ラピディティかつ小さい横運動量)における三重陽子の生成量が、計算では過小であることが明確になってきた。実験では中性子は十分に測定されていないが、計算ではt/3Heの比が中性子と陽子の比(n/p)より小さいことがわかる。入射エネルギー50 MeV/nucleonでも同様である。これは熱化学平衡が実現していないことを意味するのだろうか。これに関して、AMDでの二核子衝突過程やそれに伴うクラスター相関生成を精査したところ、二陽子間(pp)と二中性子間(nn)の相関を入れるかどうかで、t/3Heとn/p(nnやppは2核子と数える)との関係が変わることがわかってきた。つまり、膨張する核物質中でのnnやppの相関の強弱の情報が間接的に得られている可能性が高く、今後の研究で発展させたい。 AMDで用いているガウス波束は、6次元の位相空間においてもガウス波束である。特に波束がもつ運動量幅の役割は無視できず、その取り扱いと物理的解釈に注意を要する。この年度は、自由粒子の運動(衝突の初期状態や終状態)における波束の考察を行い、運動量幅を持つ波束による二核子衝突を無矛盾に行えるようにAMDの理論的枠組みを改良した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究自体には、当初予定していたものや、t/3Heの問題や位相空間における波束の問題などの新たな課題についても、進展があった。新型コロナウィルス感染症の蔓延のため、国際会議での発表はオンラインで行われ、対面での参加の機会が延期となっている。
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今後の研究の推進方策 |
今後も研究の取りまとめを進め、論文や国際会議などで発表するとともに、本研究で得られた新たな課題に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症蔓延のため、予定していた国際会議にはオンラインで出席し、旅費が生じなかった。次年度には対面での国際会議出席を予定しており、主に旅費として使用する予定である。
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