研究課題
本研究では、原子核殻模型を発展させ、ベイズ統計を導入することによって原子核構造理論の不定性を評価、理論模型の限界や予言の精度を定量的に議論することが目的である。前年度までの成果として、ベイズ統計による不定性評価を実現するために、多数のハミルトニアンのアンサンブルを構成し、マルコフ鎖モンテカルロによるパラメータ空間の探索をおこなう方法を前年度までに採用し、p殻核の核構造研究に適用した。この手法をそのまま、より重い原子核に適用すると、必要となる計算量が増大していくため、困難となる。この困難を克服するために、ハミルトニアンを規定するパラメーターに関するエネルギー期待値の一次微分を計算し、カイ二乗関数を最小とするパラメーター近傍における線形近似によってベイズ統計における事後確率を評価する手法の開発をおこなう予定である。これらの手法を確立するため、当該年度はエネルギー期待値の一次微分を高速に計算するための殻模型計算コードの開発をおこなった。また、旧来の殻模型計算では、原子核の遷移確率などは通常1体演算子の期待値を求めていた。しかしながら近年の原子核理論の発展により、カイラル有効場理論の高次項などを考慮に入れた高精度の評価が可能となりつつある。これを実現するには殻模型計算コードによって異なる二つの波動関数間の2体演算子の期待値を求める必要がある。この2体演算子による遷移行列要素を高速に計算するコードを開発した。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的の一つである大規模並列計算用の殻模型計算コードの開発は、高速化や機能拡張に成功し、応用範囲を広げている。これまでの成果は、残りの期間で実施予定の有効相互作用の構築や不定性評価の研究促進に大きく役立つと期待される。
今後は、さらなる殻模型計算コードの高度化の実装をおこなうとともに、中重核領域の原子核殻模型有効相互作用の構築を進める。カイ二乗関数の線形近似による評価によって、劇的な計算時間短縮を試みる。これらの進展によって、殻模型計算による中重核構造の微視的記述と、不定性評価の実用化を目指した開発・研究を進める。
計算機使用料を申請予定だったが、別途申請にて計算機資源を獲得できたため翌年度に繰り越した。今後、成果発表に用いる予定である。
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