本年度は暗黒物質の対消滅による宇宙マイクロ波背景放射に対する影響を詳しく調べた。暗黒物質の有力な候補である弱い相互作用しかしない質量を持った粒子(WIMP)は宇宙初期において対消滅反応率が宇宙膨張に比べて小さくなって熱浴から離脱することからその存在量が決まるが、離脱後も対消滅反応は起こり反応によって生じる高エネルギーの光子や電子・陽電子はバックグランドのプラズマと相互作用し電磁シャワーを生成しながらエネルギーを失っていく。この過程において水素やヘリウムがイオン化され再結合時前後の電離史が変更を受けそれが宇宙マイクロ波背景放射の非等方性に影響を与えることから暗黒物質の対消滅に対する制限を得ることができる。代表者は以前開発した高エネルギー光子・電子のスペクトルの時間発展を計算するコードを精密化し、新たにヘリウムの電離過程を加える等の改良を行い、最新の観測データを用いて暗黒物質の対消滅断面積に対する信頼度の高い制限を得た。 暗黒物質候補の非常に軽いアクシオンが宇宙初期にオシロン(Iボール)と呼ばれるノンとポロジカル・ソリトンを生成することに着目し、生成したオシロンが作る等曲率ゆらぎを数値格子シミュレーションを用いて調べ、長波長にカットオフをを持つポアソン分布に従う揺らぎが生されることを明らかにした。さらに、オシロンの揺らぎによって小質量の暗黒物質ハロー数が増加することから中性水素の21cm線の吸収線の観測からアクシオンによるオシロン形成が検証できる可能性があることを示した。 また、重力波検出器LIGOで発見された原始ブラックホールを説明するするアクシオン・カーバトン模型が同時に最近パルサータイミング観測で示唆された重力波も説明できることを示した。
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