活動銀河中心核からほぼ光速で噴出される宇宙ジェットの加速機構を明らかにするため、中心核に位置する巨大ブラックホール周りの磁気圏(ブラックホール磁気圏)において、遷磁気音速磁気流体プラズマ流の定常解を解析した。 ブラックホール磁気圏とは流体に比べて磁場が卓越した領域であるが、重力が卓越したインフロー(降着流)領域と、遠心力が卓越したアウトフロー(宇宙ジェット)領域に区分される。その境界には各々の流れを生み出すプラズマ源が存在する。プラズマ源から外向きに放出された流れは、ローレンツ力により加速され、磁気的エネルギーを流体の運動エネルギーに転換し、相対論的宇宙ジェットを形成する。近年、電波VLBI観測により宇宙ジェット付け根領域の速度場が観測されるようになってきた。 本研究では、アウトフロー定常解を最新の「M87銀河宇宙ジェット」の速度場データにパラメータフィットさせることで、宇宙ジェットおよびブラックホール近傍プラズマの物理量について推定した。観測データから宇宙ジェットの加速領域はブラックホール半径(Rg)の数100-1000倍程度であるが、これがアルフェン点-速い磁気音速点をまたぐ領域であることを示した。また、プラズマ源が100Rg付近に位置することを示した。宇宙ジェットの自転(軸周りの回転)についての観測的データは得られていないが、定常解により1年間に20-50回程の自転と推定した。さらに、ジェット流の1粒子当たりのエネルギーは静止質量の10倍程であり、回転エネルギーはその0.9倍であることを示した。そのエネルギー源は、ブラックホールの回転エネルギーに起源する(ブランドフォード=ナエック機構;1977)と期待させるが、定常解のパラメータで説明可能であることを示した。 本研究で解析した宇宙ジェット解は、NGC315宇宙ジェットにも適用でき、同様の加速機構で説明可能である。
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