研究課題/領域番号 |
17K05441
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
保坂 淳 大阪大学, 核物理研究センター, 教授 (10259872)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | チャームクォーク / 生成反応 |
研究実績の概要 |
本研究で計画した3つの項目について報告する。 (A) 生成反応:大学院生1名を補助者としインハ大学のHyun-Chul Kim 氏の協力のもと、チャームバリオンの生成にあたり2個のクォークが関与する2体反応の一般公式を導くことに成功した。この公式は本研究の基盤となった1体反応を拡張したもので、得られた行列要素には類似の構造と、2体反応に特徴的な構造を見出した。現在は前方散乱過程でこの公式の具体的な数値計算を行い、結果を学術論文に発表する準備を進めている。 (B) チャームバリオンと励起状態:チャームバリオンの励起状態の構造を詳細に探るため、電磁相互作用エネルギーの評価を行った。大学院生1名を補助者とし、具体的な計算を行った。その結果、最近Bell/KEKで発見され質量が精密測定されたΞcバリオンのλモード励起で、ダイクォーク相関が強調される傾向を見出した。成果は大学院生の修士論文にまとめられた。Pcに関連する研究として、隠れたチャームハドロンの分子共鳴状態と、5クォークのコンパクトな状態を結合させた量子散乱の問題を扱った。その結果、Pcに類似の状態生成には、パイオン交換による引力に加え、コンパクトな状態の仮想状態への量子ゆらぎの効果が重要なことが判明した。成果は学術論文で発表した。 (C) 崩壊反応: チャームバリオンが2個のパイオンを放出して崩壊する過程を、実験データと直接比較できるDalitzプロットとして求めた。それにより、Λ(2625)が2個のパイオンを段階的に放出し崩壊する過程において、閉じたチャンネルにあるΣc(2520)の仮想状態の寄与が重要となることを示し、実験データをよく再現することを示した。これによりバリオンの多粒子放出崩壊過程の機構の解明に向けた理論研究を進めることが可能になった。結果は学術論文で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
いずれの研究項目について研究を進め、成果を発表できるところまでもっていけた。そのいずれも学術論文を出版し成果を公表することができた。また論文執筆の準備に取り掛かるとともに、今後の発展性まで見通し今後の計画につなげることができた。 (A)この課題における当初の目標は、2体反応の公式導出であったが、それを完成させ、さらに反応の物理的な意味を明らかにするに至った。インスタントン起因の相互作用を採用することで、それがクォークの接触型相互作用近似が使え簡単で本質的な導出が可能になったこと、さらに、相互作用のの有限到達距離を導入する方法の見通しをつけることができた。これらは今後の発展的な研究課題である。(B)の最初の研究では、電磁相互作用エネルギーがバリオン内のダイクォーク相関を強く反映することがわかった。しかしながら、データを系統的に説明するには、さらなる理論計算と精密な実験データが必要なことも明らかになった。2つ目のPcの研究では6名の比較的大きな共同研究を進め、論文を完成させた。ハドロン分子構造と5クォークのコンパクトな構造を結合した量子散乱問題は世界初の研究となり、今後、エキゾチックハドロンの研究を進める上での重要な手法を提供した。 (C)の研究では、論文発表の後、Belleグループの実験研究者との連携を密にし、今後ハドロンの3体崩壊を主軸にして実験データと直結する理論研究を展開する共同研究グループを形成することができた。大学院生1名を補助者に含め、発展が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
(A)-(C)の研究項目を計画通りに進めていく。30年度に期待できる内容は以下の通り。 生成反応:2体反応の公式とそれを前方散乱の場合に適用した生成率の理論計算結果をまとめ、学術論文に発表する。また、国際会議などの機会を活用し成果公表を進める。発展的な研究として、一般の角度における生成率、有限な到達距離の相互作用における生成率、そしてそれらからダイクォーク相関の抽出に向けた解析を行う。この課題はインハ大学との国際共同研究で行う。 Pcの研究では負のパリティー状態に限っていたが、正のパリティー状態の問題に拡張する。クォークの励起を伴うため理論的にはより多くの計算を必要とするが、実験で示唆される状態に対応させるための必須の研究である。国内の数名の理論研究者との共同研究として行う。 3対崩壊における角度相関の理論基盤を完成させ、実験データと比較する。また、チャームやボトムバリオンの3体弱崩壊における終状態相互作用から、それらの作る共鳴状態の情報を抽出するための理論体系を構築する。実験研究者を含めた理論実験の共同研究として行う。 以上の研究実施にあたっては、適宜大学院生を研究補助に充てることにより研究を促進するとともに、次世代の人材育成にも貢献する。また成果は学術論文のみならず、随時国際会議などの場で広く発表するとともに、参加者との議論と通して新たな知見を取り入れながら進めることに努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していたパソコン購入に関して、他の財源を充当することができ本科研費からの支出の必要がなくなった。また当該年度に保坂が主催して実施した、国際研究集会(HNP workshop, 12月実施)に研究課題関連の研究者を招聘するために支出を予定していたが、他の財源からの支援が当初予定を上回ったこと、支払い予定者の一部が自己資金にて参加したことなどから、差額が生じた。差額の適切な使途として年度内に新たな計画のもと支出するより、次年度に繰り越すことが妥当であると判断した。次年度には、本計画を推進するために共同研究者を招聘する、米国で開催される国際会議2件への参加、および保坂が主催する国際スクールの開催に伴い、本人および関連研究者のサポートが予想され、差額はこれらに必要な経費の一部に充当する。
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