研究実績の概要 |
本研究の目的は、近年高エネルギー反応実験において発見が相次ぐ、新規なハドロン現象を解明すべく、生成と崩壊反応とともに構造の理論研究を進めることである。ハドロンを構成するクォーク、ダイクォークなどの相関がどのような状態を作り出し、質量、崩壊、生成反応などのデータにどのように反映されるかという問題に取り組んだ。 今年度の成果は以下の通り。 (1)基底状態と同じ量子数を持ち、動径振動と考えられる励起状態の崩壊を解析した。長年知られているRoper共鳴と呼ばれる状態に加え、最近ではLHC, KEKから重いフレーバー領域でも類似の状態が発見されるに至り、その解明が待たれている。本研究では崩壊現象によって、閉じ込められたクォークの運動状態を検証できることを指摘した。データが示す有限の寿命を説明するためには、クォークの相対論的な運動効果が必須であることを、運動状態の遷移における選択則として模型非依存に示した。この結果はバリオン内部のクォークの運動状態を知る重要な手がかりを与える。 (2)重いクォークを2個含むテトラクォークQQq*q*(Qは重いクォーク、q*は軽い反クォーク)の安定状態を、クォーク模型の4体問題を厳密に解き調べた。その結果、安定状態が存在するとの予想を確認した。QQ間の強いカラークーロン力によって、最も安定な状態は170 MeVの大きな束縛ネルギーを持つ。その構造はコンパクトな重いダイクォーク[QQ]の周りにq*q*が運動する、擬似3体系であることを密度分布の解析によって示した。この結果を受け、現在は共鳴状態の研究を継続している。[QQ]ダイクォークが励起するモードや、擬似3体系[QQ]q*q*としてq*q*の励起モードが期待される。それらはクォーク間の相関に依存して、異なる内部構が発現することを強く示唆するもので、広く他のハドロン状態への応用が期待できる。
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