研究課題
強い相互作用の基礎理論である量子色力学 (QCD) は、初期宇宙や中性子星内部のような超高温・高密度環境下において、カイラル対称性の回復や非閉じ込め相転移などの多様な相転移現象・物性現象を持つ。これらの現象の理解は、宇宙史の解明や相対論的重イオン衝突実験の理解のために必須となる重要課題である。本研究では、これらの現象の理解に向け、格子ゲージ理論第一原理数値シミュレーションを用いた研究を行ってきた。本期間中には、超高温物質の動的性質、特に流体方程式に現れる基本定数を解析する上で必須となるエネルギー運動量テンソルの研究を展開した。本年度は、流体方程式の基本情報である状態方程式の解析について、フェルミオンを含むQCDにおける解析を精力的に進めた。最近計算されたマッチング係数の高次項を用いたエネルギー運動量テンソルの数値計算を行い、状態方程式の解析がより安定的に遂行できるという結果を得た。この結果は、勾配流法によるエネルギー運動量テンソル解析の安定性と信頼性を更に向上させる重要な結果である。また、勾配流法によるエネルギー運動量テンソル解析を用いて非閉じ込め相に静的クォークが一個置かれた系の解析を行った。これにより、静的クォークによってカラー場が受ける歪みの効果を定量的に解析することに初めて成功したほか、遠距離でのカラー遮蔽や近距離での結合定数のランニングに関する情報を得た。研究期間全体を振り返ると、状態方程式などの流体方程式の基本定数の解析が大幅に進んだことに加え、エネルギー運動量テンソル測定を用いた静的クォーク系の解析などの研究開始段階では想定していなかった新しい派生課題に関しても興味深い研究成果を挙げることでき、精力的かつ多角的に研究成果が挙がった充実した研究期間であった。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 5件、 招待講演 5件) 備考 (1件)
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http://www2.yukawa.kyoto-u.ac.jp/~masakiyo.kitazawa/physics.html