研究課題/領域番号 |
17K05445
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
仲野 英司 高知大学, 教育研究部自然科学系理学部門, 准教授 (70582477)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ボーズ・ポーラロン / カイラル対称性の部分的回復 |
研究実績の概要 |
一般に媒質中における準粒子描像は分野を問わず有用な概念である。本研究の目的は、1)対称性の自発的破れを伴う凝縮体を媒質とし、その媒質中の準粒子描像を少数多体系に拡張する一般的枠組みを構築する。また、2)その枠組みをハドロン少数多体系および冷却原子多体系に応用し、系の基底状態や励起構造を明らかにすることである。 本年度は、まず、上記のような系を記述する一般的な枠組みを与える定式化を行った。系の自由度は、媒質を表す凝縮体とそこからの素励起、および外から導入する不純物である。不純物が存在するときの凝縮体の方程式をボゴリューボフ・ドジャンに従って導出した。また、空間変化のある凝縮体の下での不純物の従う方程式を中間結合理論に基づいて導出した。この2つの方程式を連立させることで、系のダイナミクスを記述することができる。 初めに、冷却原子系ボーズ・アンシュタイン凝縮体における不純物(ボーズ・ポーラロン)にこれらの方程式を適用した。ただし、凝縮体の変化が小さいとしてこれを近似的に無視した。この定式化を空間一様系のボーズ・ポーラロンに適用し、フォノン間相互作用を取り入れた基底状態の評価をおこなった。また、実験に対応すべくトラップ系のボーズ・ポーラロンに対して、ゲージ変換を用いた全角運動量を保存する枠組みを構築した。これらの研究成果を学術論文としてまとめている。 次に、ハドロン少数系に対してこれらの方程式を具体的に書き下した。このときハドロン自身の存在によるポテンシャルの変化を自己無撞着に取り入れた。この方程式の解について、ある程度解析的に性質を明らかにすることができるが、現在、数値的解法に取り組んでいる。また、この方程式は冷却原子系におけるボーズ・ポーラロン系においても適用可能である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、ハドロン少数系および冷却原子少数系を不純物として媒質に導入した時の媒質の局所的変化と、媒質におけるハドロンおよび冷却原子の準粒子としての性質を同時に記述することであり、概ね当初の計画通り、一般的な枠組みとその定式化はほとんど完成しており、現在はそれを具体的な系に適用している段階である。冷却原子系ボーズ・ポーラロンに対する適用に関しては、現在研究協力者および大学院生と協議しながら研究課題を進めている。一般的定式化を適用する段階において、系の具体的な性質による困難も予想されていたが、トラップ系における冷却原子ボーズ・ポーラロンにおいては、系の保存量を保つ方法が必要となった。一様系の運動量と異なり、トラップ系では角運動量(その一部)が保存量となるが、これを一定に保ちながら状態を記述する方法として、変形原子核におけるクランキング法をゲージ化することで予想外に簡単に記述できる方法を新たに見つけた。これによって、任意の数の素励起と不純物の角運動量の合成を具体的に行うことなく、簡単に全角運動量を保つ定式化を行うことができ、トラップ系のボーズ・ポーラロンの記述において当初の予定にない進展があった。 ハドロン少数系に対する適用においては、従来の研究ではハドロンの存在による局所ポテンシャルの変化が無視されてきたが、今回の定式化ではこれを取り入れる形になっており、ハドロンによるカイラル対称性の部分的回復とそのハドロンに対するフィードバック効果が取り入れられている。ただ、この記述では必然的に系が非一様になり方程式が当初考えていたよりも複雑になった。現在、数値的な解法を試みており、ある程度見通しも立っている。
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今後の研究の推進方策 |
冷却原子ボーズ・ポーラロン系に関する研究課題では、実際に実験で使われているトラップ中の定式化において進展があった。これは当初の計画には無かった知見であるが、汎用性があるのでトラップ中のボーズ凝縮体における集団励起モードとポーラロンの相互作用に対しても今後適用する。また、現在、一様系におけるボーズ・ポーラロンについてフォノン間相互作用を取り入れたより詳細な記述を試みているが、当初の計画通り、フォノンおよびポーラロンの2体系、3体系というような少数多体系に対しても、今回の研究で得られた一般的定式化を適用し、系の基底状態および励起状態、および状態形成のダイナミクスを記述する。ただし、系の時間発展を追うダイナミクスの記述は、当初計画には無かったが、冷却原子ボーズ・ポーラロンの実験的検証に有用であることが最近わかった。現在の枠組みにおいて時間発展を記述するには、ポーラロンを準粒子とし、その自由度に対応するフォノン分布関数に時間依存性を導入することで可能となる。また、フォノンの放出・吸収による散逸効果は別に取り入れる。 一方、ハドロン少数系に関する研究課題は、研究協力者とも協議しながら、現在行っている数値計算を前進させる。また、ハドロン系は一般に相関が強い系なので、揺らぎの効果を十分取り入れる必要がある。当初計画では、揺らぎの効果を系統的に取り込むために繰込み群の方法を適用することにしているが、ハドロンが不純物としてあるときは系が空間非一様になるので従来の一様系の方法が適用できない。この点についても研究協力者と協議しながら進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では、数値計算のための計算機を購入する予定であったが、解析的手法によってある程度進展する方向が幾つかあり、それを優先させたために数値計算を後に回すことになった。そこで計算機の購入は、スペック等の向上が期待できる次年度にすることにした。今回生じた差額と翌年度分として請求した補助金の使用計画として、今回生じた差額は計算機等の購入に充て、翌年度分として請求した補助金はおおむね当初の計画通り使用する。
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