研究課題/領域番号 |
17K05446
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
河野 宏明 佐賀大学, 理工学部, 教授 (80234706)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 格子量子色力学 / 有限密度 / 符号問題 / 虚数化学ポテンシャル / Z3対称性 |
研究実績の概要 |
格子量子色力学は、非摂動的な場の理論の方法の中で、最もシステマティックに整備された理論の1つである。この理論を使った統計力学は、有限温度かつ零バリオン密度での計算について、確固たる成功を収めてきた。しかし、有限のバリオン数密度においては、計算の過程で符号問題と呼ばれる問題が生じるため、計算に困難が生じる。特に高バリオン数密度においては信頼のおける計算結果が存在しない。符号問題は計算過程に登場する有効作用が虚数部分を持つ事によって生じる。この研究では、有効作用の虚数部分が小さく、かつ低温で通常の理論と一致するZ3対称化された量子色力学を用いる事で、この問題を克服する事を試みる。数値計算のプログラムは、通常の格子量子色力学のプログラムを3層化し、それらに3つのZ3要素に対応する虚数化学ポテンシャルを導入する事により作成した。前年度に作成したプログラムは、高温相においてやや不自然な振る舞いが見られため、本年度はプログラムを抜本的に修正して、テストランした結果、不自然な振る舞いは解消した。その後、位相クエンチ近似のもとで、大規模な配位生成を行い、相当数のパラメータセットに対して、数千から数万の配位を得る事ができた。また、得られた配位を用いて、ポリヤコフループやアイソスピン数密度などの計算を行った。一方で、格子量子色力学の計算効率や精度を上げるテクニックについての研究や、格子量子色力学によって得られた数値計算結果を分析、チェックする現象論模型や分析方法に関する研究も行った。これらの研究成果は、適宜、学会・学術誌等で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究2年目になる平成30年度は、前年度に作成したプログラムを修正・改良し、テストランでその有効性を確かめた。さらに位相クエンチ近似のもとで、大規模計算を行い、配位の生成を行い、さらにいくつかの物理量を計算した。比較対象となる通常の格子量子色力学についても計算を行った。配位は、かなりの数のパラメータセットに対して、数千から数万程度得られた。計算した物理量は、プラケット、ポリヤコフループ、アイソスピン数密度である。一方で、格子量子色力学の数値計算の効率や精度を高めるための研究や格子量子色力学の数値計算結果を分析、チェックする現象論模型や分析方法の研究も行った。単年度としては、十分な進展が得られたと思うが、プログラムの修正など、前年度の遅れを回復するための作業に時間がかかり、再重み法を用いた位相因子や物理量の計算には至らなかった。以上の状況を考慮して、2年間トータルの進捗状況としては、「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、作成した配位を用いて再重み法を用いた位相因子の計算やバリオン数密度の計算を行う。 まず、再重み法の計算プログラムを作成し、それをテストランして位相因子やバリオン数密度のテスト計算を行う。得られた結果を現象論模型などで得られた結果と比較検討し、プログラムを実行して得られた結果に不自然な点がないかどうか慎重に分析する。これらの分析が終わり、計算プラグラムのチェックが完了した後に、本格的に位相因子の計算やバリオン数密度の計算を行う。これらの過程で、必要があれば、配位数の増加生成も行い、適宜プログラムの効率化を図る。得られた結果を分析し、符号問題がどの程度改善されたかを分析する。また、比較検討する現象論模型の改良、数値結果の分析方法および計算方法の高精度化・効率化に関する研究も並行して行う。 途中結果も含めて、得られた結果を適宜、研究会・学会・報告書・学術論文等で発表してゆく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度の計算機使用に関する報告会の1つが平成31年度の4月初旬に行われる事になり、その旅費として予定の予算が次年度使用となった。剰余分は主として上記の報告会への出張経費として使用する予定である。平成31年度の助成金についてはそれ以外の物品、計算機関係の費用や旅費等に使用する予定である。
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