研究課題/領域番号 |
17K05451
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
前田 健吾 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (10390478)
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研究分担者 |
石橋 明浩 近畿大学, 理工学部, 教授 (10469877)
飯塚 則裕 大阪大学, 理学研究科, 助教 (40645462)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | AdS/CFT対応 / エンタングルメントエントロピー / ヌル量子不等式 |
研究実績の概要 |
今年度は当初の研究計画を変更し、研究計画の最終年度で行う予定であった量子情報理論に関する研究を一年前倒しで進めた。最近になって、量子情報理論の観点からAdS/CFT対応を考察するという動きが世界的に起こっており、この分野での研究は急速に進展している。特に強結合の場の量子論において、ヌルエネルギーの非負性や、ブッソらが最近提唱した量子ヌル不等式は大きな注目を浴びている。その一連の研究の流れの中で、量子ヌル不等式に着目し研究を進めた。量子不等式は、ヌルエネルギーがエンタングルメントエントロピーのヌル方向の二階微分で決まる下限で抑えられるという不等式である。これまでの研究結果において、境界時空が3次元であれば、ある条件下でAdS/CFT対応を用いて一般的に成立することが知られていた。今年度の研究において、3次元の境界時空がワームホール時空となるように4次元の真空バルク時空を数値的に構築した。バルク時空ではホライズンがあり、ワームホールの口近傍ではヌルエネルギー条件が破れている。AdS/CFT対応を用いれば、境界上の強結合の場の量子論において、ワームホール時空上で熱平衡状態にある場のエネルギー・モーメンタムテンソルのヌルヌル成分が負になることを示している。量子不等式に依れば、この時空でもエンタングルメントエントロピーの二階微分で抑えられるはずだが、数値的な計算により破れていることがわかった。エンタングルメントエントロピーの発散は紫外発散による効果と赤外発散効果の両方が存在するが、これまでの証明では紫外発散のみに着目され、赤外発散の効果は考慮されてこなかった。今回の破れはこの赤外効果によるものであり、量子ヌル不等式の破れを示す初めての例となった。この結果はPhysical Review D という雑誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画を若干変更したが、その結果興味深い結論を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究展開として、今年度の研究結果をさらに拡張し、世界的に注目を浴びている平均化されたヌルエネルギー条件に着目して研究を進めていく。局所的な条件であるヌルエネルギー条件は、特異点定理など様々な一般相対論における古典的基礎定理の前提条件になっているが、量子論を考慮すると破れることが知られている。そこで、光的測地線のアフィンパラメーターで平均化された平均化されたヌルエネルギー条件が古くから提唱されている。近年Wallらによって、ミンコフスキー背景時空での強結合の場の量子論で一般的に成立することが示され、この不等式の重要性が注目された。今後の研究計画では、このヌルエネルギー条件に着目し、AdS/CFT対応を用いて一般の曲がった時空でも成立しているかどうか解析をしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は当初予定していた研究会に出席できなかったため、当初予定していた研究費の使用を延期した。また、次年度は年度末にサンタバーバラで開催予定であるAdS/CFTに関るウ大きな国際ワークショップがあるため、このワークショップ参加のための費用に充てる予定である。
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