研究課題
近年、軽い原子核の励起状態に、複数のα粒子が弱く束縛した「多重α構造」の存在が議論されており、更に原子核にラムダ粒子を投入して得られる「エキゾチック原子核」にまで、多重α構造の研究が進展してきている。これらの「エキゾチックな多重α系」に共通の特徴として、その核半径の異常増大が指摘されているが、半径増大を実証することはこれまで不可能であった。本研究では、申請者が独自に考案した分析手法をエキゾチック多重α系の生成反応に適用し、その核半径の異常増大現象を実証することを研究目的とする。本年度は、12Cの3α状態に注目し分析を進めた。まずα+12C非弾性散乱により12Cの3α回転状態を終状態として励起する反応チャンネルに注目し、その散乱微分断面積から核半径が増大している証拠を捉えることを試みた。具体的には、まずα+12C非弾性散乱に対する散乱断面積の計算を行い、実験データの再現に成功した。次に3α回転チャンネルに対するα散乱角度分布を分析し、それには通常の回転励起よりも顕著な収縮構造が生じることを実証した。更にそこから3α回転状態の核半径を評価し、12Cの基底状態よりも顕著に増大していることを実証した。これらの成果はPhysical Review Cに受理され、現在発表が進められている。更に同様な分析をラムダハイパー核である13ΛC系に対して行った。13ΛCは12CにΛ粒子を投入して得られる系であり、12Cの3α状態と同様、3α+Λ状態の核半径増大が予想されている。この問題に対し、13ΛCの生成反応、13C + K- --> 13ΛC + π-反応の散乱断面積を計算し、3α+Λ状態の核半径が12C+Λ状態よりも顕著に増大していることを実証した。同時に、3α+Λ状態を生成する反応断面積の大きさについても定量的な評価を行っている。13ΛCに関する成果については現在論文を執筆中である。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度は主に16O、20Ne系の計算を進めることが主な研究計画であった。16Oについては一部分析を進められたが、20Neについては分析が進まなかった。この理由は、科研費応募時に投稿中であった12Cの論文の査読過程に時間がかかり、更にそれに関連した分析にも予想以上の時間がかかってしまったためである。12Cの論文を投稿したところrefereeからの批判を受け、また同時に進めた学会発表等を通じて幾つかの問題点を指摘された。それらを考慮して問題点を改善し、論文にまとめるのに予想以上の時間がかかってしまったため、当初の計画が進まなかった。しかしながら、12Cの論文は最近になってPhysical Review Cに受理され、また本研究を支持する実験研究者も増え、実際に検証実験も行われるようになってきた。従って12Cの分析をより深めることは、長期的は意義が大きかったと考えている。一方、12Cの分析が進展したことにより、平成30年度に予定していた13ΛCの分析を進めることができたので、その点は進捗が進んだといえる。この分析では、3α+Λ状態の核半径増大とともに、その生成反応断面積の定量的な予言を行うことに成功した。この成果については現在論文を執筆中であり、近日中に投稿が可能な状況にある。13ΛCについては、3α+Λ状態の生成断面積の実験的測定が画策されており、実験に先駆けて反応断面積を評価できたことは大きな成果である。なお、平成29年度に予定していた16O、20Neについては共同研究者と相互協力して今年度進める予定である。これらの研究については、最新の実験データを保持する実験研究者との共同研究が必須である。進捗状況について総括すると、平成29年度の計画自身はあまり進まなかったが、その代わり平成30年度の研究計画の一部が進展したため、総合的にはおおむね順調に進んでいると結論できる。
本年度は主に16O系の反応分析を中心に進める予定である。16Oには4α構造を持つ核半径が顕著に増大した状態が存在することが最近指摘されており、この点を実験データの分析を通して実証することは、12C=3αの直接的な拡張として意義深い。これまで、既存の16Oの散乱データの分析を通し、16O=α+12C構造を持つ状態についてはある程度計算と考察を進めてきた。しかしながら、最近になって16O=4α状態に対応すると思われる実験データが得られており、その理論分析が急務になってきている。この分析を進めるにあたって必要な方策は以下の二点である。①16Oのα散乱に関する実験データの整備②4α状態の内部波動関数の準備と反応計算の実行。①については、東北大学の実験グループが既に実験測定を行っており、そのデータ解析を進めている状況である。データ解析の終了に合わせて、理論計算を開始することが理想である。②については、関東学院大学の理論グループが4α状態の精密な内部波動関数を既に保持しており、それを反応計算に適した形式に変換する作業が必要になる。現在その変換を依頼しており、近日中に準備が整う段階である。また本年度進めた12C、13ΛCについても継続した分析と論文発表が必要であると感じている。12C、13ΛCは3α構造を持つαクラスター状態の典型例であるため、これらの系で分析の基礎を固めておくことは非常に重要である。12Cについては、最近、新たな実験データも得られてきており、それらの理論的分析も必要になってきている。また、13ΛCについては、本年度にある程度の分析を進めたが、13ΛCの取り扱いを簡略化した側面があるため、その精密化が今後重要になってくる。関東学院大学のグループは、12Cと13ΛCの両方について精密な内部波動関数を保有しており、それらを用いてより精密な理論計算を行うことも今後重要である。
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Physical Review C
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Proceedings of the 2017 Symposium on Nuclear Data; November 16-17, 2017, High Energy Accelerator Research Organization, Tsukuba, Ibaraki, Japan
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巻: 163 ページ: 00026-1,7
https://doi.org/10.1051/epjconf/201716300026
巻: 163 ページ: 00040-1,6
https://doi.org/10.1051/epjconf/201716300040