研究課題/領域番号 |
17K05454
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
伊藤 誠 関西大学, システム理工学部, 教授 (30396600)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | αクラスター構造 / 核半径 / 核反応 / 波動回析 / Λハイパー核 |
研究実績の概要 |
近年、軽い原子核の励起状態に複数のα粒子が弱く束縛した「多重αクラスター構造」の存在が議論されており、更に原子核にΛ(ラムダ)粒子を投入して得られる「エキゾチック原子核系」にまで、多重αクラスター構造の存在が議論されてきている。これらの多重αクラスター状態の特徴の一つとして、核半径の異常増大が指摘されていたが、それを実証することはこれまでほぼ不可能であった。本研究では、多重α状態を生成する反応断面積に着目し、その振る舞いから核半径の異常増大を実証しようとするものである。 これまでは主に12Cの励起状態に形成される3αクラスター状態に注目した分析を行ってきた。具体的にはα+12C非弾性散乱により12Cの3α回転状態を終状態として励起する反応チャンネルに注目し、その微分断面積の振る舞いから3α回転状態の核半径増大を明確に指摘することに成功した。 本研究で主に進めたのは12Cの3α状態の分析についてであるが、その分析手法自体は一般の核反応系へ適用が可能である。その分析手法とは、多重α状態を生成する反応チャンネルと共にそれと対になる殻模型的状態を生成する反応チャンネルにも注目し、それらを比較することである。この比較の視点は先行研究には全く存在していなかった。実際、この分析手法を13C + K- --> 13ΛC +π-反応に適用し、13ΛC = 12C+Λ、3α+Λの反応断面積を比較することにより、後者の半径増大が実証可能なことを指摘した。 2020年度はCOVID-19の長期化により国際・国内学会の多くが中止されたため、学会における資料収集、成果報告等の研究活動を行うことが困難であった。そこで論文発表を中心に研究活動を進めている。現在13ΛC生成反応の論文をPhysical Review Cへ投稿しており、陽子+12C散乱の分析に関する論文を実験グループと共同で執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度に13ΛCの生成反応の分析結果を論文にまとめ、投稿に至ったという点については研究が大きく進展した状況であった。現在のところ、13C + K- -->(3α+Λ) + π-反応の反応断面積はまだ未測定であり、その実測定が以前より実験グループによって検討されてきていた。本論文では実験測定を見越した理論計算を行い、3α+Λ生成における反応断面積のオーダーとその角度分布の特徴を予想することに成功した。その結果、3α+Λのチャンネルは、12C+Λのチャンネルに比べ、放出されるπ-中間子の角度分布に顕著な収縮が起こることが分かり、それを用いると3α+Λ系の核半径を予想できることが明らかになった。これは12Cの非弾性散乱の分析から得られた結果と完全に整合している。本研究の成果によって、これまで進んでいなかった実験計画が大きく進展する可能性がある。その意味でも、本研究の成果は非常に意義が大きいといえるであろう。 現在審査レポートが返送されており、審査員からの批判的なコメントを受けている。この批判に対応すべく新規の理論計算を遂行中であるが、論文の詳細を仕上げるためには、反応計算のプログラムの供給を受けた共同研究者(関東学院)との対面での打ち合わせが必須である。そのための旅費を数万円程度確保していたが、昨年度発生したCOVID-19の影響により、対面での打ち合わせを行うことが不可能な状況であった。 一方これまで述べた計算に並行して陽子+12C散乱の解析も行っており、同様の半径増大を裏付ける結果が得られている。しかしながら実験データが未発表だったため、計算結果を論文発表するまでには至らなかった。最近、他のグループによって陽子+12C散乱の理論解析が進展してきたため、陽子散乱についても論文発表の準備を進めている段階である。 これらの現状を総合すると、当初の研究計画はやや遅れていると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度から引き続き、今年度最優先で取り組むべきことは、研究成果の学術雑誌での発表である。昨年度から保留になっている関東学院の共同研究者と論文修正の打ち合わせを対面で行い、13ΛC生成反応に関する論文発表を行うことが最優先事項である。zoom等での議論も予定しているが、最終的な打ち合わせは対面で行うことが必要である。 また、当初の研究計画に含まれていた16Oの4α状態を励起する非弾性散乱、α + 16O --> α + 4αについては、まだ計算の準備段階にある。これは、16Oの内部波動関数の準備にある程度時間を要しているということ、また実験データの分析と発表が現時点でまだ進んでいなことが大きな理由である。仮に現段階で理論計算に着手したとしても、4αの半径増大現象に関して最終的な結論を得るには至らないと予想している。16O系については実験データの分析と発表の進捗状況を踏まえつつ、適切な時期に開始することが重要であると考えている。 一方、陽子+12C散乱については、実験グループと討論し、共著で論文発表することで合意が得られた。現在その論文を執筆中である。本年度は13ΛC、陽子+12C散乱の論文発表を最優先事項として取り組む予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では、関東学院大学に所属する共同研究者との対面での研究打ち合わせを2019年度末に予定しており、そのための国内旅費として約6万円を確保していた。しかしながら、理論計算遂行に遅延が生じたため、やむを得ず研究打ち合わせを2020年度に延期することになった。 ところが、2019年度末からCOVID-19パンデミックが発生しそれが長期化したため、2020年度中に対面での研究打合せを行う事が不可能となった。この研究打合せには計算プログラムの確認と修正を伴う作業が含まれるため、対面での打ち合わせが必要不可欠である。現在、2021年度の適当な時期に対面での研究打ち合わせを行う方向で調整を進めている。
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備考 |
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