原子核は核子から構成される有限量子多体系であり、その基底状態は全ての核子が密集した空間的にコンパクトな構造をしている。一方、軽い原子核の励起状態にはクラスター状態と呼ばれる特徴的な構造が現れる。クラスター構造とは一塊の原子核が複数のサブユニット(クラスター)に解離してそれらが緩く結合した状態であり、例えば炭素12原子核が3つのアルファ粒子(4He原子核)に解離した3アルファクラスター構造がよく知られている。 クラスター構造は弱結合なため量子トンネル効果が顕著になり、基底状態に比べて核半径が顕著に増大することが理論的に予想されている。12Cの3アルファ状態は顕著な半径増大が起こる典型例であり、基底状態に比べてその核半径は1.5から2倍程度増大すると考えられている。一方、3アルファ状態を生成するのに必要な励起エネルギーは、全結合エネルギーの約数パーセント程度である。数パーセント程度のエネルギー注入によって数十パーセント以上の半径増大が起こるのは、自然界においてはほぼ原子核のクラスター状態のみであり、この異常性は有限量子多体系の特色の一つである。しかしながら、クラスター状態は非常に短寿命であるため、その核半径の実験的な直接測定はほぼ不可能な状況であった。 本研究では、12Cの3アルファ状態に注目し、3アルファ状態を終状態として励起する非弾性散乱、ラムダ粒子生成反応等に注目し、その反応断面積の分析から、3アルファ状態の核半径増大を実証しようとするものである。現在、非弾性散乱の分析がある程度終了し、π中間子入射によるラムダ粒子生成反応の分析を進めた。
|