研究課題
研究実施計画に基き本年度は、平成29年度までに開発した計算コードを実際に超重元素合成に適用し、安定な島への到達可能性についての計算を行った。開発した計算コードのキャリブレーションを行うために、まず核子移行反応による分裂片の質量と放出角度の相関について計算し実験データと比較を行った。実験データとの比較において、不定なパラメータである複合核の回転に対する慣性モーメント、diabactic potential からadiabatic potential に移行する緩和時間、さらに接線方向の摩擦係数などの値を決定し、計算コードの精度を上げていった。このような計算は、超重元素領域の融合分裂過程における反応機構を知る上で非常に重要であり、特にfusion-fission process とquasi-fission process の区別や軌道の振る舞いの違いなどを明確に理解することが可能となった。また計算コードのパラメータ依存性や反応機構の物理的特長などを明らかにすることで、未知の原子核の反応について予測することも可能となった。次に統計模型コードをランジュバン方程式のコードに取り入れ、動力学計算中に中性子放出を考慮したコードのテスト計算を行った。コードが正しく動作しているかの確認をいろいろな側面からチェックし、正常に動いていることを確認した。超重元素合成のために標的核と入射核および入射エネルギーを決めて系統的な計算を行う準備を行った。現在考えられている超重元素合成の実験手法では、二重魔法核として予測されているZ=114, N=184原子核を合成することが出来ない。そこで新しい手法として「動的な殻補正エネルギーの利用による新元素合成」を提案し、テスト計算を実施した。テスト計算の段階では、予測した反応機構はまだ十分に見えていないが、その兆候はあり次年度に向けて計算の整備を行った。
2: おおむね順調に進展している
超重元素領域の融合分裂過程を取り扱う計算コードはほぼ完成し、テスト計算を行った。また核子移行反応による計算結果と実験結果を比較しながら、不定なパラメータの値の決定およびコードのパラメータ依存性を熟知し、計算で得られる物理量とコードの特性について理解を深めた。このことにより、新元素合成に向けたより現実的な反応についての考察が可能となった。さらに新しい反応メカニズムの構築に取り組み、「動的な殻補正エネルギーの利用による新元素合成」について提案を行った。融合分裂反応において、変形領域に殻補正エネルギーの大きな地点(second pocket)が現れることがある。一般に超重元素領域の融合過程では軌道は一旦このような大きな変形領域に入り、その後方向転換して再分裂領域に向かう傾向にある。この方向転換する地点を「turning point」と呼んで、丁度、second pokectと一致するとき、融合がenhance される機構を見つけ出した。この機構を利用するため、様々な原子核のポテンシャルや入射エネルギーを変えた軌道計算を行った。テスト計算によって大体の予測を行い、次の大規模な系統的な計算の準備を整えた。また、連携研究者の萩野浩一氏(東北大学)とともに入射核が標的核に接触するまでの計算をTDHF計算で扱い、その後、3次元ランジュバン方程式を用いた計算で複合核を形成する確率を計算する手法を開発し、それを用いて融合確率の計算を行った。標的核が変形したアクチノイド原子核の際、入射核が標的核にさまざまな角度から接触する状況をTDHF計算では取り入れることが出来、現実的な模型である。
研究計画に基づき、開発およびパラメータの値をセットした「中性子放出に伴うポテンシャルの変動を考慮したランジュバンコード」を用いて、系統的な計算を実施し、様々な系、入射エネルギーで安定な島への到達可能性について計算を行う。また、中性子過剰な複合核を生成するために、将来利用できる可能性のある中性子過剰ビームを使った系についても検討を行う。このような実験技術については実験研究者である西尾勝久氏(連携研究者)と議論を行いながら研究を進める。さらに「動的な殻補正エネルギーを利用による新元素合成」について、実現可能な入射核、標的核を検討し最適入射エネルギーを決定する。研究の総括として、得られた計算結果をまとめ、理論模型の整備を行う。
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