研究課題/領域番号 |
17K05457
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
浜名 崇 国立天文台, 科学研究部, 助教 (70399301)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 観測的宇宙論 |
研究実績の概要 |
今年度は、本研究課題の目的である暗黒物質ハロー形成進化における質量集積史効果の物理機構解明とハローモデル拡張に関する重要な要素である暗黒物質ハローの動力学の環境依存性について研究を行なった。暗黒物質ハローの動力学は観測的には銀河の相関関数の赤方空間歪みの測定と密接に関係する。銀河の相関関数の赤方空間歪みは宇宙の構造形成にともなう銀河の運動に起因するものであり、宇宙の初期状態や物質組成また重力理論に依存するため宇宙の構造形成進化を探る有力な手段となっており、現在計画されている大規模銀河赤方偏移サーベイで高精度の測定結果が得られることが期待されている。宇宙論的多体数値シミュレーションを用いて作成した擬似暗黒物質ハローカタログを用いて、暗黒物質ハローの動力学と周辺の暗黒物質密度の統計的性質を調べた。その結果暗黒物質ハローの動力学は周辺の暗黒物質密度に強く依存していることがわかった。また暗黒物質ハローの相関関数の赤方空間歪みも同様に周辺の暗黒物質密度に強く依存しており、暗黒物質密度がより高い領域にいる暗黒物質ハローほどより強い赤方空間歪みを生ずることがわかった。さらに周辺の暗黒物質密度が平均密度より低い領域においては、通常の赤方空間歪みとは逆に視線方向に垂直な成分が相対的に強められることがわかった。これらのことは、赤方空間歪みの測定に用いる銀河がどのような環境に存在しているかによってそれから測定される赤方空間歪みが異なることを意味している。このことは銀河の赤方空間歪みの測定からその環境効果が探れることを意味しており、暗黒物質ハロー形成進化における質量集積史効果を観測的に探る有力な手段となる。さらにこの効果は銀河の赤方空間歪みを用いて宇宙の構造形成を研究する際にこれまで留意されていなかった点であり、本研究から得られた重要な成果の一つである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、暗黒物質ハロー形成進化における質量集積史効果が銀河の相関関数の赤方空間歪みの測定に及ぼす影響を研究した。宇宙論的多体数値シミュレーションを用いて作成した擬似暗黒物質ハローカタログを用いて、暗黒物質ハローの動力学と周辺の暗黒物質密度の統計的性質を調べ、暗黒物質ハローの動力学が周辺の暗黒物質密度に強く依存していることを明らかにした。暗黒物質ハローの質量集積史は、その周辺の暗黒物質密度に強く依存するため、このことは暗黒物質ハローの動力学に関係する観測量が質量集積史効果と相関していることを意味している。暗黒物質ハローの動力学は銀河の相関関数の赤方空間歪みと密接に関連しているため、その赤方空間歪みの観測から暗黒物質ハローの質量集積史効果に関する情報が得られる。暗黒物質ハローの動力学は宇宙の構造形成にともなう運動に起因しており、その周辺暗黒物質密度との相関は暗黒物質ハロー形成進化における質量集積史効果の物理機構と密接に関係していると考えられるため、本年度の研究成果により物理機構の解明に向け観測量と理論モデルを結びつける非常に有用な結果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で得られた、暗黒物質ハローの力学構造パラメーター、空間相関関数、動力学と暗黒物質ハロー周辺の暗黒物質密度の関係の統計データを基に、暗黒物質ハロー形成進化における質量集積史効果の物理機構のモデル化をさらに推し進め完成させる。また銀河の相関関数の赤方空間歪みや空間相関の測定量から暗黒物質ハロー形成進化における質量集積史効果の観測的検証を行うための手法の開発を進め、物理機構モデルの観測的検証を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年3月に参加を予定していた研究会が新型コロナウイルス感染防止対策のため取りやめとなったため次年度使用額が生じることとなった。2021年度の旅費として使用する計画である。
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