研究実績の概要 |
重元素の起源と考えられる急速な中性子捕獲反応過程(r過程)は、どのような天体で起きたのであろうか。有力な候補天体は、中性子星連星系合体(NSM)、磁気回転流体ジェット型超新星爆発(MHDJ-SN)、ニュートリノ加熱型超新星爆発(neutrino-SN)である。2010年以降、始原的隕石の研究が進み、r過程で生成された長寿命の放射性同位体が太陽系形成時に存在していたことが判明し、太陽系形成直前に太陽系近傍でr過程が発生して、その生成物が初期太陽系に混ざったと考えられる。これらの観測値と、当該研究でのr過程元素合成モデルによる計算結果との比較から、太陽系形成直前に発生したr過程の起源天体の正体を明らかにすることが当研究課題の目的であった。 太陽系形成時に存在した98Tc(半減期t=4.2x10^6年)が、重力崩壊型超新星爆発でのニュートリノ過程で合成されることを発見した(Phys. Rev. Lett. 121 (2018),102701)。更に、同様の起源を持つことが知られていた長寿命放射性アイソトープ92Nb(t=3.47x10^7年)、138La(t=1.03x10^11年)、180Ta(t=4.5x10^16年)等の生成では電子型ニュートリノ反応が支配的であるが、反電子型ニュートリノのエネルギースペクトルに強く依存する98Tcの発見は初めてである。太陽系形成時に存在していた129I(t=1.6×10^7年)は主にMHDJ-SNで、244Pu(8.13×10^7年)は主にNSMのr過程核分裂サイクルによって生成されることが判った。上記3種類の起源天体を銀河化学進化モデルに組み込み、NSMまでに最低一億年程度を要する観測と整合して、初期銀河の金属欠乏星に見つかっているr過程元素に対するNSMからの寄与はほとんど無く、MHDJ-SNとneutrino-SNが支配的な寄与をすることが判明した。
|