研究課題
ミューオン異常磁気モーメントの精密測定は、素粒子物理学における「新物理」の発見が最も期待される実験の 1つであり、革新的新手法による測定計画が国内で進められている。この手法にはミューオニウム(電子と正ミューオンの束縛状態)生成・放出標的の開発が重要であり、レーザー穴加工で表面積を増大したシリカエアロゲルが有望である。他方、レーザー穴加工はエアロゲルの表面破壊や形状変形を引き起こし、穴加工の最適化や長期安定性に懸念がある。本研究では、シリカエアロゲル標的でのミューオニウム生成・放出過程に対する表面穴加工の影響について知見を深めるとともに、有機-無機ハイブリッド構造により機械的強度を高めたエアロゲル(PMSQゲル)標的を試作・評価し、論文にまとめた。異なるレーザー穴加工を施したシリカエアロゲル標的に対するミューオン照射試験により、ミューオニウム収率と穴加工の開口率とに正の相関が、穴深さとに負の相関が見られた。それぞれ物質除去(ミューオニウム拡散の促進)と局所的高密度化(ミューオニウム拡散の阻害)というレーザー穴加工の相反する影響と考えており、今後の標的開発に指針を与える。同時に、幾つかの異なる穴加工おいてこれまでの最高収率と同程度の収率が得られ、50時間程度の連続使用における収率の安定性も確認できた。また、スピン歳差運動振幅の測定から、著しい減偏極はなく、ミューオニウム生成率は65%程度であることを確認した。標的素材としての適性を確認するとともに、ミューオニウム生成・放出過程の定量的な理解に有用な情報を得ている。PMSQゲルについては、レーザー穴加工においてその構造・密度による炭化と特徴的な表面破壊が観測され、加工レーザー仕様の最適化の必要性が示唆された。ミューオニウム収率もシリカエアロゲルのそれより低く、高い密度によるミューオニウムの拡散阻害が支配的要因と考えている。
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Progress of Theoretical and Experimental Physics
巻: 2020 ページ: 123C01 (1,24)
10.1093/ptep/ptaa145
http://g-2.kek.jp/gakusai/