研究課題/領域番号 |
17K05469
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
松田 達郎 宮崎大学, 工学部, 教授 (20253817)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | エキゾチック中間子 / 中間子分光学 / B中間子崩壊 / 部分波解析 |
研究実績の概要 |
本研究は軽クォークエキゾチック中間子を、KEK・Belle実験において収集されたB中間子崩壊データを用いて探索することを目的とする。2019年度は以下の点について研究を進めた。 本研究はB中間子崩壊過程でチャーム中間子と同時に生成される軽クォーク中間子に焦点を当てて研究を進めるという点がユニークな点である。軽クォーク中間子の生成において、軽クォークエキゾチック中間子の生成が期待されるが、一般には通常の軽クォーク中間子の生成と重なって現れる。そこで得られた事象分布に対して部分波解析を行ってスピン・パリティ状態を分離する必要がある。そのため前年度から続いてROOTを用いた部分波解析プログラムの開発を進め、同時に開発した解析プログラムが正しいかを確認した。確認には予め得られるべき答えが分かっている事象を用いて解析を行うが、これにEVTGENと呼ばれるモンテカルロシミュレーションコードによって生成されるイベントを用いたが、確認作業においてEVTGEN自身に問題があることを明らかとした。そこでEVTGENコードを詳しく調べ、EVTGENが使用する相対論的ブライト・ウイグナー関数に問題があることが明らかとなった。このことは同時に実際の事象に適用するブライト・ウイグナー関数にも当てはまる。問題点が明らかとなったことで、部分波解析プログラムを前進させる見通しを立てることができた。 また、軽クォークエキゾチック中間子を探索する反応過程として、新たにB->J/ψηπ反応があることが本年度発表された理論論文により示された。そこで本年度より同反応過程の解析を開始した。 さらに、宮崎大学に設置するサーバーのOSを更新し、対応してBelleライブラリーの再インストールを行った。これによって効率的に解析プログラムの開発を行う基盤が整備された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
軽クォーク中間子分光学の研究においては、多くの中間子状態が重なって観測されるため部分波解析プログラムの開発が必要である。部分波解析プログラムの開発には高度な知識と経験が求められるため、国内でも部分波解析を行えるグループは宮崎大学のグループの外には多くない。研究実績の概要でも説明した通り、部分波解析プログラムの開発には手順を踏んで解析を進めていく必要があるが、部分波解析プログラム自身ではなく、確認に使用するモンテカルロコードによって発生させた事象に問題があることが明らかとなった。このモンテカルロコードの分析と検討なども必要となり、解析プログラムの開発時間に予想以上の時間を要することとなった。しかし本年度において問題点が明らかとなったことで、相対論的ブライト・ウイグナー関数の問題、事象が分布する位相空間をどのように設定するかについての理解を深めることができた。 また、本年度は宮崎大学グループが中心的主催者となってハドロン物理に関する国際シンポジウムを宮崎市において開催し、ハドロン物理に関する研究交流を進めることができた。しかしシンポジウムの準備および開催に関わる業務に時間を要し、研究自体を進める時間が少なくなったことは否めない。 さらに宮崎大学に設置するサーバーのOSの更新を行い、Belleライブラリーの再インストールに少なからぬ時間を要した。これらの業務および作業によって進捗状況をやや遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、これまで解析の中心的チャンネルとしているB->D*ηπ反応過程に加えて、B->J/ψηπ反応を加えて解析を進める。最近発表された理論論文によって同反応が注目すべき反応であるという指摘がなされ、また宮崎大学グループでは過去にB->J/ψωK反応過程の解析を進めた経験および解析プログラムを有しており、ω中間子とη中間子は同一の3π中間子に崩壊するため解析プログラムの開発がより容易であり、エキゾチック中間子探索をより早く進めることができる。また、現在進めているBelle2実験によって事象統計量を飛躍的に増やすことが可能であり、今後の研究の発展の足掛かりとなる。この過程を新たにグループに加わった大学院生を中心に解析を行う。 また、部分波解析プログラムの開発にも時間を要しているが、時間を要したことによって種々の問題点の理解が進み、問題点はほぼ把握できたと考えている。コロナ禍による予期せぬ業務の負担などや、出張の規制などによる研究打合せの機会が少なくなるという問題もあるが、逆に腰を落ち着けて解析を進めることができると期待する。これらを通じて研究最終年度としての研究の仕上げを行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度において中国・桂林で開催されたハドロン国際会議に参加予定であったが、研究の進展状況がやや遅れていること、また宮崎において別のハドロン物理に関する国際シンポジウムを主催・開催し、日程等の調整が難しく参加しなかったため、これらの旅費等が節約された。そこで研究年度を1年間延長し、研究の進展の遅れを取り戻すとともに、必要計算機資材の購入および大学院生の研究発表のためのシンポジウム参加費などとして研究助成金を活用し、当初目的とした研究計画の達成を図る。
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