研究課題/領域番号 |
17K05469
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
松田 達郎 宮崎大学, 工学部, 教授 (20253817)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | エキゾチック中間子 / 中間子分光学 / B中間子崩壊 / 部分波解析 |
研究実績の概要 |
本研究は軽クォークエキゾチック中間子を、KEK・Belle実験において収集されたB中間子崩壊データを用いて探索することを目的とする。2021年においても当初計画を延長して実施することとしたが、継続するコロナ禍などによりさらに研究が遅れ、本年度は以下の点について研究を進めた。 本研究はKEK・Belle実験によって収集された膨大なB中間子生成データを用いて、B中間子崩壊過程でチャーム中間子と同時に生成される軽クォーク中間子に焦点を当てて研究を進めるという点がユニークな点である。従来、軽クォーク領域におけるエキゾチック中間子探索研究は、ハドロンビームによる回折散乱過程を中心として探索・研究されてきたが、回折散乱過程においては背景事象となるDeck様反応が同時に生じ、共鳴状態の生成の判別に困難が伴うことが知られている。近年、CERN・COMPASS実験は回折散乱過程において高統計・高精度データに基づいた解析結果を報告していたが、さらにジェファーソン研究所の共同物理解析センター(JPAC)グループはCOMPASS実験データのηπ系の部分波解析結果を利用してチャンネル結合解析法などによって解析を進め、比較的幅の広い共鳴が1.6GeV/c2付近に1つのみあるという結果を報告し、従来指摘されていた1.4GeV/c2と1.6GeV/c2付近に共鳴状態が2つあるという結果を翻した。さらにCOMPASS実験グループは2022年1月に、3π系においても1.6GeV/c2付近に対応するエキゾチック状態が観測されたという結果を報告した。これらの報告は、我々の研究にも大きく関わるため、情報収集および検討を進めた。その結果、我々の解析実験データのユニークさおよび解析研究の意義は損なわれてはおらず、我々の解析を進める必要があることが明らかとなり、早急に研究を前進させる必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
軽クォーク中間子分光学の研究においては、多くの中間子状態が重なって観測されるため、求める共鳴状態事象を含む反応を解析して探索するだけでなく、共鳴状態と背景事象の弁別を明瞭にする必要がある。そこで、共鳴状態と背景事象の弁別を明瞭にするため本研究では(1)部分波解析と呼ばれる解析を行って共鳴事象と背景事象を弁別するという方向と、また(2)背景事象が少ない反応過程を選んで解析をするという二つの解析研究を平行して進めている。 (1)の研究については解析プログラムの開発を進めて行くうちに、統計量の多い精度が高いデータを解析する場合の問題点があることが理解できた。すなわち、実験データの精度が高い場合には、解析に用いる理論モデルの精度も高くしなければならないということである。また、部分波解析プログラムの構築には時間を要するが、あらたに理論モデルの検討という問題も生じた。種々の検討により問題解決の方向は見えているがさらに時間を要する。 (2)の研究の方向については、解析プログラムの構築はほぼできているが、グループ内部に対して報告を行うという作業が必要であるが、時間的制約などによりまとめの作業が遅れている。 (1)および(2)の研究においてコロナ禍の影響はそれなりに大きく、さらに本年度においても遠隔授業の準備および学部改組直後に伴う業務の増大などが大きな負荷となり、研究に専念できる時間が制限された。そこで進捗状況の区分を遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、進捗状況で述べた(1)および(2)の研究の両者を進めて行く必要があるが、結果をより明らかとしやすい(2)について集中して取り組む。 (2)の解析研究では、これまでにB->D*ηπ反応過程の解析プログラムの構築もほぼ完成したので、Belle実験グループでの確認を得る作業を集中的に行い、本年度に結論を得るべく努力する。 本年度もコロナ禍による業務の負担の増大や、出張の規制などによる対面での研究打合せの機会が容易に取れないという問題があるが、2022年度においては状況はかなり改善されつつあり、研究最終年度としての研究の仕上げを行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍によって大幅に研究に関わる出張が制限され、また予期せぬ業務として大学における遠隔授業および学部改組初年度による新たな授業の準備および実施などに時間を費やすこととなり、本年度に多くを執行することができなかった。 次年度の後半にはワクチン接種の実施などによりコロナ禍の影響が少なくなり、必要な研究に関わる出張ができることを期待して出張計画に使用するものとして出張費用を計上する。 さらに研究年度の延長に伴って解析に必要な計算機サーバーの維持、更新も必要となることから、サーバー機の維持、更新費用などに充てるものとする。
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