本研究は軽クォークエキゾチック中間子を、KEK・Belle実験において収集されたB中間子崩壊データを用いて探索することを目的とする。計画年数を超えて延長したが、なおコロナ禍と研究担当者の所属学部改組による教育業務の変更への対応、また研究担当者家族の介護等の影響を受け、本年度は関連する学術論文、国際会議報告等の調査研究が中心となった。 本研究はKEK・Belle実験によって収集された膨大なB中間子生成データを用いて、B中間子崩壊過程でチャーム中間子と同時に生成される軽クォーク中間子に焦点を当てて研究を進めるという点がユニークな点である。従来、軽クォーク領域におけるエキゾチック中間子探索研究は、ハドロンビームによる回折散乱過程を中心として探索・研究されてきた。しかし回折散乱過程においては背景事象となるDeck様反応が同時に生じ、共鳴状態の生成の判別に困難が伴うことが知られている。CERN・COMPASS実験は回折散乱反応に対して巧妙にDeck様反応の寄与を考察して解析を進め、ηπ系およびπρ系にエキゾチック中間子であるπ1(1600)の存在を報告し、さらに米国・ジェファーソン研究所(JLAB)・共同物理解析センターグループはCOMPASS実験データの解析結果を用いてチャンネル結合解析法による解析を進めてπ1(1600)の存在を報告している。一方で、JLABの高エネルギー光子線を用いた中間子生成反応実験ではπ1(1600)の生成は認められておらず、π1(1600)の存在は生成反応に依存するように見える。従ってπ1(1600)の存否と正体を解明するためには、CERN、JLABのいずれの反応チャンネルとも異なる本研究による解析を進める必要があることが確認できた。また現在の実験データは従来の実験に比しはるかに高統計、高精度となっており、解析手法の高度化が求められることを確認した。
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