研究課題/領域番号 |
17K05477
|
研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
家入 正治 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (50192472)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | イメージ撮像管 / ストレンジネス / 核物理 |
研究実績の概要 |
長い画像保持時間を有し、露出時間の短い『超高速イメージ撮像管』を完成させる。速い撮像素子による画像記録技術を融合し、外部からのトリガーを可能とする。これにより、加速器実験施設の大強度ビームの環境下で、数cmの領域で起こるハイペロンの生成・反応・崩壊の特徴的な軌跡を確実に認識できるようになり、ハイペロンが関わる散乱実験などの統計精度の向上、及び、測定限界の開拓などが可能となる。 超高速イメージ撮像管は、管の中の光電子の移動を制御して入力画像情報の「保持」と「選択」を行う。素粒子原子核反応を可視化して捉える手法において非常に強力な観測装置となる。特筆すべきは、通常の撮像管とは異なり、画像保持を蛍光体の残光時間特性に頼るシステムを構築する必要性がないため、装置としての撮影速度は原理的には外部トリガーによる露出時間のみで決まる事である。この性能を最大限に発揮できる画期的な『超高速イメージ撮像管』を実現する。以下の三つの項目において、画像観測装置として最高性能を得ることを目的とする。 (1) 長い画像保持時間 (2) 短い画像選択時間(短い露出時間) (3) 速い撮影速度 平成30年度は、光電効果の仕事関数が2.3eVの酸化金属材料を蒸着した入力窓材を用いて試験を進めた。この酸化金属は仕事関数の値が小さい上に、通常の撮像管や増倍管で使用されている材質に比べて、空気中に曝しても安定であり、かつ、潮解性はない。従って撮像管の解体・各部の改良・組み上げを幾度も試みる本開発には、適切な素材となる。 これまでの科研費で進めてきた開発試作機に酸化金属を蒸着した新しい窓材を入力側のセラミック枠に組み込んだ。高電圧を印加し波長が短いレーザー光を入力に用いて、ゲート電極の電圧のいくつかの値に対する撮像管の基本性能試験を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
撮像管では、入力面に飛び込んでくる光子を、入力窓に塗布または蒸着した物質の光電効果により電子に変換する。この入力側の光電面に、光電効果の仕事関数が2.3eVの酸化金属材料を蒸着した窓材を採用した。この酸化金属は他の金属などに比べて仕事関数が低く、青色より短い波長のレーザー光を使用すれば光電子を発生できると見込まれる。従って、本開発での撮像管の性能試験が効率よく実施できると考える。また、通常の撮像管や増倍管で使用されている光電材質に比べて、空気中に曝しても安定であり、かつ、潮解性はない。撮像管の解体・各部の改良・組み上げを幾度も試みる本開発には、適切な素材となる。 これまでの科研費で進めてきた開発試作機に、この酸化金属材料を蒸着した新しい窓材を入力側のセラミック枠に固着したのちに、撮像管に組み込んだ。 平成30年度はレーザー光の入力調整治具や試験用の保持架台などの設計と製作を行い、撮像管を所定の真空を維持しつつ、高電圧を印加して試験を実施した。印加電圧やゲート電極電圧などを変化させながら試験測定を進めているところである。この試験測定で出力信号を検出するのにかなり時間を要している。出力側には光電子増倍管を用いて試験測定を行なっている段階で、位置分解能の測定やソレノイド磁場の最適化などには至っていない。
|
今後の研究の推進方策 |
ソレノイド磁場がない状態で、撮像管本体の印加電圧と出力側の輝度との相関の測定を継続する。出力信号の検出が困難な場合は、入力窓に使用した酸化金属蒸着層の厚さが異なるものを用意しているので、厚みによる出力の違いを調べる。次にソレノイド磁場の強さによる位置分解能の変化を測り、イメージ撮像管の各部の長さや電子発散を抑制する磁場強度などの最適化を行う。超高速イメージ撮像管の時間特性(画像保持時間と画像選択時間)を調べるために、出力側の輝度と位置分解能を測りながら、移動電子の制御を行うパルス電圧や外部トリガーの信号幅との相関を評価する。 必要な事象に対してのみ撮像管にパルス電圧を印加する為に、短い繰り返しが可能なパルス発生高電圧電源を用いる。主要パラメータの設定、細部寸法の決定等を平行して進めながら、撮像素子の仕様を詰める。 欧州原子核共同研究所へ赴き、高速イメージ増幅管に経験を有する先方の研究者と打ち合わせを行ない、資料・情報等を収集する。作成したイメージ撮像管の撮影速度をLEDと光電子増倍管等により評価する。さらに宇宙線等を用いて基本性能のテストを行なう。粒子の飛跡に沿って光を発生する位置検出器としては、シンチレーティング・ファイバー等を使用する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
イメージ撮像管の開発試作機本体から真空ポンプまでの真空配管経路の短縮を試みたため、試作機本体の保持架台などを製作してソレノイド磁石内部に組み込む前に磁場のない状態での試験を継続している。 レーザー光を入力側に照射して行なっているものの、レーザー光量のさらなる微細な調節が必要であることも判明したため、レーザー光源の固定ジグなどの追加製作の必要性が生じた。それにより、予定していたパルス発生電源の仕様の確定と購入は次年度に行うこととした。 その後に、最終年度としていた本体のセラミック部品や、画像処理のための回路、必要となる電子回路の購入を行い試験開発を進める予定である。
|