原始背景重力波は、初期宇宙のインフレーション膨張期における時空の量子揺らぎに起源を持つと考えられており、その検出によって理論モデルを定量的に選別し、初期宇宙の物理的描像の理解に進展をもたらすものとして期待を集めている。原始重力波に由来する信号の検出を目指して、マイクロ波背景放射偏光の空間分布から奇パリティパターンの分離を試みる、いくつもの実験が世界各地で推進されている。本研究課題は、系統誤差が埋め込まれた偏光地図から原始重力波の信号を抽出するための解析手法を構築し、その数値的基盤の整備を行うものである。 2018年度までに、系統誤差印加シミュレーションの開発および事後解析処理のソフトウェア開発が完了、一連の数値シミュレーションを実行できる体制を構築して疑似標本の収集作業を開始した。2019年度は取得した標本データ群に事後解析処理を適用し、諸々の系統誤差が原始重力波検出に与える影響、とりわけレンズ解析への誤差伝搬ついて評価を行った。2018年度から継続していた標本収集は年度中旬に完了した。これによって、利得や指向の揺らぎなどの様々な装置特性が原因で生じる系統誤差に関して、解析手法の試金石となる疑似観測データ群を獲得した。標本獲得を受けて、系統誤差に汚染された偏光地図を対象としたレンズ解析を行い、レンズポテンシャルの推定にバイアスや不定性の嵩上げが生じることを突き止めた。その一方で、将来観測で期待される誤差の水準に照らして、多くの系統誤差では重力レンズ除去解析への影響が軽微なものにとどまるとの認識を得た。 2019年度の進捗によって本課題の研究計画を完了、次世代観測における重力レンズ除去解析の有効性を end-to-end な数値シミュレーションに基づいて確認することができた。
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