研究課題/領域番号 |
17K05483
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研究機関 | 公益財団法人佐賀県地域産業支援センター九州シンクロトロン光研究センター |
研究代表者 |
高林 雄一 公益財団法人佐賀県地域産業支援センター九州シンクロトロン光研究センター, 加速器グループ, 副主任研究員 (50450953)
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研究分担者 |
隅谷 和嗣 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 利用研究促進部門, 研究員 (10416381)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | チャネリング / 結晶 / ビーム操作 |
研究実績の概要 |
湾曲結晶チャネリングによるビーム偏向法は1976年に予言されて以来,ビームスプリッターなどへの応用を念頭に,世界各地の高エネルギー加速器で,主にイオンビームを用いて研究が進められてきた.最近では,LHCにおいて,世界最高エネルギーとなる6.5 TeV陽子のチャネリング実験が行われた.一方,2014年にドイツのMAMIで855 MeV,2015年にはアメリカのSLACで3.35-20.35 GeVの電子ビームを用いて実験が行われるようになってきた.電子ビームのエネルギーが低くなると,結晶内における多重散乱の影響が大きくなることが予想されるが,そのような低エネルギー領域における電子ビーム偏向の検証が本研究の目的である. 実験は,SAGA-LSリニアックからの255 MeV電子ビームを利用して行った.標的として,厚さ40ミクロン,(111)面の湾曲半径約10 mm,湾曲角度1.4 mradのSi結晶を用いた.結晶は2軸回転可能なゴニオメーターに取り付けた.結晶透過後のビームの角度分布は結晶から5.12 m下流に設置されたスクリーンモニタを用いて測定した.実験の結果,入射ビームの約10%が1.4 mrad偏向されていることが確認された.実験結果は,シミュレーションにより再現された.ただし,予想された通り,多重散乱の影響により,チャネリングによって偏向された成分は,チャネリングしなかった成分と大きく重なっていた.より詳細な解析を行うには両成分を分離させる必要があるが,そのためには,結晶の湾曲角度をより大きく,つまり,湾曲半径をより小さくする必要がある.ただし,結晶の湾曲半径を小さくしようとすると,結晶が割れやすくなることに注意しなければならない.今までに様々なタイプの湾曲装置を試作し,その結果を基に実機の設計を行った.今後,その湾曲装置を使って,実験を行う予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)【湾曲結晶チャネリングによるビーム偏向実験】前年度から引き続き,SAGA-LSリニアックからの255 MeV電子ビームを利用して実験を行っており,すでにチャネリングによるビーム偏向に成功している. (2)【チャネリングのシミュレーション】ロシアのトムスク工科大学の理論グループとの共同研究でチャネリングに関するシミュレーションを進めており,実験結果とほぼ一致した結果が得られている. (3)【X線回折による湾曲結晶の評価】SAGA-LSの放射光ビームラインBL15に設置されているディフラクトメーターを利用してロッキングカーブを取得することにより,湾曲Si結晶の湾曲角度の評価を行うことに成功している. (4)【湾曲結晶の開発】厚さ40ミクロン,湾曲半径約10 mmの湾曲Si結晶の開発に成功した.次に,より湾曲半径の小さい結晶の開発を目指して,様々なタイプの湾曲装置を試作し,その結果を基に,実機の設計を行った.ただし,当該年度内に,実機の製作までには至らなかった.
(1),(2),(3)に関しては,順調に進展していると言える.(4)に関しては,やや遅れている.総合的に判断して,おおむね順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
(1)【湾曲結晶チャネリングによるビーム偏向実験】すでに,実験装置,実験手法とも確立しており,引き続き,チャネリングによるビーム偏向実験を行う. (2)【チャネリングのシミュレーション】新たな実験結果が得られ次第,同条件でシミュレーションを行い,実験結果との比較を行う. (3)【X線回折による湾曲結晶の評価】開発した湾曲結晶について,SAGA-LSの放射光ビームラインBL15において,X線回折実験を行い,結晶の湾曲角度の評価を行う. (4)【湾曲結晶の開発】今までに得られた知見や海外グループの湾曲装置などを参考にし,より湾曲角度の大きい(より湾曲半径の小さい)結晶の開発を行う.すでに,湾曲装置の実機の設計はほぼ完了しており,その製作に着手している.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では,結晶を湾曲させる装置の開発がキーポイントとなる.得られた研究結果から,より湾曲角度の大きい(より湾曲半径の小さい)結晶の開発が必要となった.今までに,様々なタイプの湾曲装置の試作を行ったが,より湾曲半径を小さくしようとすると結晶が割れてしまい,当初の予定よりも試作段階で時間を要した.そのため,湾曲装置の試作結果を基に,湾曲装置の実機を製作する予定であったが,実機の製作までには至らず,次年度使用額が生じた.引き続き,湾曲装置の開発を進めるが,そのための費用として予算を使用する予定である.
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