(1) 前年度に引き続き、DNAやオリゴペプチドなどの様々な螺旋状有機分子において観測されているスピン選択性に対する共通の機構を解明することを目的として、螺旋状原子鎖に対して電流誘起スピン偏極と電流誘起軌道角運動量偏極を、螺旋状原子鎖スピンフィルターに対してスピン偏極電流を強束縛モデルに基づき計算した。本年度は、原子鎖の曲率だけでなく捩率にも着目し、電流誘起のスピン偏極と軌道角運動量偏極の接線方向、主法線方向、従法線方向の成分について曲率依存性と捩率依存性を調べ、接線成分は捩率の1 次に比例し,従法線成分は曲率の1 次に比例することを明らかにした。さらに、ハミルトニアンから軌道角運動量とホッピングが曲率や捩率によって結合する項を導出し,軌道角運動量偏極の構造依存性の起源を解明した。スピン偏極の構造依存性も軌道角運動量偏極がスピンに対して有効磁場として働くことから導かれる。スピンフィルターに対しては、電流誘起スピン偏極に起因するスピン偏極電流が発生することを明らかにした。 この研究成果は有機分子のようにスピン軌道相互作用が小さい軽元素からなる物質でも構造を制御することで十分大きいスピン流を生成することが可能であることを示唆している。
(2) IV族元素Snからなる原子層スタネンに垂直に電場を加えて空間反転対称性を破った系について、電流誘起スピン偏極を強束縛モデルに基づき計算した。強束縛モデルのパラメタは第一原理計算により決定した。計算結果よりフェルミ波数を変えることで電流誘起スピン偏極の符号が反転することを見出した。この結果は電子密度を変えることで電流誘起スピン偏極の向きを制御できることを示している。 この機構を解明するために有効ハミルトニアンを構築し、波数と副格子自由度の結合および副格子自由度に依存するRashba型相互作用の働きにより符号が反転することを明らかにした。
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