研究課題/領域番号 |
17K05488
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
中山 隆史 千葉大学, 大学院理学研究院, 教授 (70189075)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 金属/固体界面 / 電場環境下 / イオン化 / 侵入拡散 / 金属電極 / 二酸化ケイ素 / ギャップ状態 / イオン価数 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、第一原理計算を用いて、電場下の金属/固体界面における金属原子のイオン化メカニズムとイオン化後の固体中での拡散を解明し、固体界面における金属原子の「イオン化・拡散の物理」を構築することである。本年度は、代表的な金属/SiO2界面と約20種類の金属原子を対象に、以下の成果を得た。 1.金属/SiO2界面でのイオン化侵入過程の解明:(1)金属原子のSiO2層への侵入過程において、侵入障壁は金属間結合を反映した金属原子の金属膜からの脱離エネルギーが主要因となり決まること、侵入金属原子は界面近傍で金属誘起ギャップ状態(MIGS)と混成するため、界面からMIGSの侵入長だけ離れた位置でイオン化が起こること、電気陰性度の小さい金属原子においては金属原子から金属電極膜への電子移動が起き、界面近傍でのイオン価数が界面からの距離と共に変化すること等を解明した。(2)金属膜電極への正電圧印可で発生した電場は、侵入障壁を電場強度に比例して減少させ、金属原子の侵入を加速することを明らかにした。さらに電場が侵入ポテンシャルや障壁に及ぼす効果を表現する普遍的な表式を導出した。 2.SiO2バルク中での金属イオン原子の拡散過程の解明:金属種に依存して次の2タイプの拡散過程が存在することを明らかにした。(1)d電子が占有されたAu、Ag等の金属原子は、周辺のSi、O原子との結合が弱い。その結果、SiO2の空領域で安定化し拡散障壁は拡散時におけるSiO2の弾性歪エネルギーが作るが、イオン化すると原子半径が小さくなるためその障壁が減少する。(2)d電子が部分占有であるTiやW等の金属原子は、d軌道の自由度を活かして周辺のSi、O原子と強く共有結合する。そのため、拡散障壁は結合の切断が理由で発生し、イオン化は周辺のSiO2にも及ぶため障壁は中性時からあまり変化しないことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画していた電場下での代表的な金属/SiO2界面における金属原子のイオン化・侵入の振舞とその機構の研究、SiO2バルク中における様々な金属原子のイオン化傾向、拡散過程とその起源の研究は概ね終了した。また、電場下の界面でのイオン化や固体中のイオン拡散を調べる基礎的な解析法が確立し、この手法を用いて次年度以降の多様な絶縁・半導体基板への展開研究の基盤もできたため。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降、これまでの研究を以下のように拡張・発展させる。 1.多様な絶縁・半導体基板への拡張:(1)異なるネットワーク構造を持つAl2O3やイオン性を持つGaP等に対象を広げ、初年度と同様な計算を行い、基板の共有・イオン性がイオン化や拡散に与える効果を解明する。(2)自己組織膜(SAM)やペンタセン等の有機基板に対象を広げ、電場下のイオン化と拡散に関しての有機基板と無機基板の本質的な相違を明らかにする。 2.空孔欠陥や負イオン、リーク電流に関する検討:(1)空孔欠陥もイオン化して拡散する。また一部の金属原子は負イオンにもなる。これらのイオン化・拡散過程を同様に調べ、原子拡散や正荷電時との相違を解明する。(2)拡散した金属イオンは電荷を放出して数原子でクラスター化してリーク電流の原因となり得る。クラスターを飛び石としたトンネル及びホッピング的電子キャリア輸送について明らかにする。 3.固体界面での金属原子のイオン化とその拡散理論の構築:以上の研究成果を総合し、基礎的な物質定数を用いて現象の解析・予言が可能な、固体界面でのイオン化および固体中でのイオン拡散の理論(モデル描像)を構築する。 以上の成果を、順次、論文および半導体系の国際会議・学会で発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 購入した計算機に対し計算環境設定を行う予定であったが、本年度はまずは研究のための計算を優先したために、一部の設定作業(並列jobの管理等)が未だ終わっていない。計算環境設定を依頼するための謝金などの予算約6万円を、平成30年度にまわした。 (使用計画) 次年度の研究費は、平成29年度に購入した大型の科学技術用計算機からの出力データを効率的に解析するために、小型計算機とソフトウェア等の購入に用いる(約35万円を予定)。一方、これら計算機の計算環境の設定(ここに次年度使用額を使う)、および計算結果の解析を依頼するための謝金にも使用する(約21万円を予定)。また、研究成果を発表するために、論文投稿料及び国内外旅費にも使用する(約40万円を予定)。
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