本研究の目的は、第一原理計算を用い、電場下の様々な金属/固体界面における金属原子や点欠陥のイオン化メカニズムとイオン化後の固体中での拡散を解明し、固体界面における金属原子・点欠陥の「イオン化・拡散の物理」を構築することである。最終年度は、イオン化した欠陥のクラスター形態に関し研究(以下の2(3))を行った。事業期間全体を通し得られた成果をまとめると、以下のとおりである。 1.金属/固体界面での金属原子・点欠陥のイオン化侵入過程の解明: SiO2、TiO2、SiC、有機固体等を対象に研究を行い、(1)金属原子や点欠陥(空孔・ドーパント、以後まとめて欠陥と記す)は界面近傍で金属誘起ギャップ状態(MIGS)と混成するため、界面からMIGS侵入長だけ離れた位置でイオン化する、(2)イオン価数が飽和しにくい欠陥では、欠陥から金属電極へ電子移動が起きイオン価数が界面からの距離と共に変化する、(3)正電圧印可時の電場を考慮すると、前者の混成は欠陥の固体層への侵入障壁を電場強度に比例して減少させ、後者の電子移動は侵入障壁を電場強度の2次に比例して減少させ侵入を加速させる、(4)これら侵入過程は、金属原子間の結合エネルギーや点欠陥の形成エネルギー、電場強度、固体誘電率を変数とした普遍的なモデル表式(物理描像)で記述されること等を明らかにした。 2.固体バルク中でのイオン化した欠陥の振る舞いの解明: (1)固体と結合の弱い金属原子・点欠陥は、主に弾性歪エネルギー損を拡散障壁とし、イオン化で欠陥半径が小さくなると障壁が減少する、(2)固体と結合の強い欠陥は結合切断エネルギーが障壁を作るため、イオン化しても障壁は変化しない、(3)金属原子・点欠陥は固体中でクラスター化しやすいが、イオン化するとクーロン斥力により分散分布形態に変化する、これら分布形態はリーク・トンネル電流の起源になること等を解明した。
|