研究実績の概要 |
半導体と磁性体の特性を併せ持つ希薄磁性半導体では、電場によってキャリアや磁性をコントロールすることができ、これを用いた超伝導接合では様々な現象を系統的に調べることができると期待される。本研究ではⅢ-Ⅴ族の希薄磁性半導体である(In,Fe)Asをベースとした超伝導接合を作成し、(In,Fe)As のスピン物性の解明や、強磁性体中における新奇超伝導現象の探索を目指している。 本年はまずNb/(In,Fe)As/Nb超伝導接合の温度磁場応答を調べた。その結果、約1K以下の低温では超伝導が(In,Fe)As内に侵入し、ゼロ抵抗となる試料を得ることができた。Nb間距離を変えた試料を複数作成することでコヒーレンス長を約0.8μmと求めることができ、キュリー温度から予測される(In,Fe)As内でのコヒーレンス長と比較することで、観測された超伝導電流がスピン三重項超伝導であることを明らかにした。また導電特性の磁場依存性を調べた結果、臨界電流が通常のジョセフソン接合から予想されるフラウンホーファーパターンとは異なる形状を持ち、さらに磁場スイープによってヒステリシスを持つことを発見した。このヒステリシスを詳細に調べた結果、観測された特異な磁場依存性は強磁性体の形状と反磁場、磁場方向によるものと予想された。これは強磁性体を用いた超伝導接合では普遍的に見られる現象であると考えられる。 さらに(In,Fe)Asに単一のNb電極を蒸着したNb/(In,Fe)As接合の伝導特性を調べた結果、ゼロバイアスコンダクタンスピークを観測した。これはNb/(In,Fe)As界面において奇周波数超伝導が生じていることを示唆しており、Nb/(In,Fe)As/Nb超伝導接合で観測された超伝導電流がスピン三重項超伝導であることと整合している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画時の予定はNb/(In,Fe)As接合の導電特性から(In,Fe)Asのスピン分極率を、また超伝導接合に有利な(In,Fe)Asの形状の評価を行うことであった。前者については当初の予定通り蒸着チャンバーの改造に取り組み、in situで試料に絶縁膜を形成できるようになった。その結果、高品質の超伝導体/絶縁体/半導体接合の試料を得ることができるようになった。これを用いて様々な厚み・形状の絶縁膜を持つ試料を作成し、その導電特性の測定を行った結果、当初予定していたものとは異なり、(In,Fe)Asではスピン軌道相互作用が強く、伝導度特性のみからスピン分極率を評価するの測定を行うことは難しいことがわかった。一方で、ジョセフソン効果の結果を裏付ける結果は得られており、予定とは異なるが一定の成果は得られたと考えている。 また後者については、複数の条件の試料を比較した結果、従来のLateral構造が加工性も高く最もよく超伝導を誘起できることがわかった。このとき作成した従来の構造の試料では、研究実績の概要で述べたような臨界電流の磁場依存性を観測し、その起源を明らかにすることができた。以上のことから多少の変更はあるものの、計画段階で予定したものに相当する成果を得られていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究はおおよそ計画時の予定通りに進める予定である。30年度はゲートによる超伝導接合特性の制御についての研究を主に進める。(In,Fe)Asはキャリア誘起強磁性であり、ゲート操作キャリア濃度の制御によって磁性を制御することができるが(In,Fe)Asのドープ量は大きくゲート操作によって磁性を広い範囲で制御するのは難しい。そこで量子井戸の上に(In,Fe)Asを積層し、量子井戸の二次元電子系の波動関数の位置と形状をゲートによって変化させることで、二次元電子系自身を希薄磁性状態に変化させることを考えている。ゲートとしては絶縁膜を形成した上で金属ゲートをつける方法が最もよく用いられるが、ここではかなり大きな電圧をかける必要があるためイオン液体を用いる予定である。 また超伝導近接効果にはスピン軌道相互作用が大きくかかわっていると考えられるが、(In,Fe)As層そのものを薄くした上で上下に伝導層を追加し上下からゲート電圧を加えることでキャリア濃度を変えずにスピン軌道相互作用のみを変化させ、これによって近接効果を制御できないかを試みる。
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