研究課題/領域番号 |
17K05492
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中村 壮智 東京大学, 物性研究所, 助教 (50636503)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 超伝導接合 / 強磁性体 / 半導体 / ジョセフソン効果 / スピンフィルター |
研究実績の概要 |
半導体と磁性体の特性を併せ持つ希薄磁性半導体では、電場によってキャリアや磁性をコントロールすることができ、これを用いた超伝導接合では様々な現象を系統的に調べることができると期待される。本研究ではⅢ-Ⅴ族の希薄磁性半導体である(In,Fe)Asをベースとした超伝導接合を作成し、(In,Fe)As のスピン物性の解明や、強磁性体中における新奇超伝導現象の探索を目指している。 本年は前年度に発見したNb/(In,Fe)As/Nb超伝導接合のフラウンホーファーパターンにおける異常な位相ジャンプやヒステリシスの起源を調べるため、非磁性のInAsを用いた超伝導接合を作成し、その磁場依存性を詳細に調べ比較を行った。その結果、InAsの超伝導接合においても位相ジャンプは存在するが、その前後で極めて大きく臨界電流が変化しフラウンホーファーパターンの形状そのもも大きく変化することを明らかにした。詳しい測定の結果、位相ジャンプは超伝導電極への磁束が出入りし、接合近傍の位相に空間変化が生じるためであることを明らかにした。また位相ジャンプをもたらす磁束の出入りは多少のヒステリシスをもたらすことが分かったが、Nb/(In,Fe)As/Nb超伝導接合に見られたヒステリシスとは明瞭に異なるものであった。これらのことからNb/(In,Fe)As/Nb超伝導接合において観測された位相ジャンプやヒステリシスは非磁性の超伝導接合では見られず、強磁性ドメインや磁気ヒステリシスの効果であることを明らかにした。 MBEで通常のInGaAs/InAlAsヘテロ構造を成長し、その伝導度について詳細に調べた。その結果、奇妙な共鳴構造を発見し、磁性体を組み合わせた試料の電流電圧特性の磁場依存性から、スピン軌道相互作用によって量子井戸にスピンフィルタリング機能があることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでのデータの詳細な解析を進めるとともに、新しいデータと合わせることで、得られた結果の解釈を進め論文化を推し進めることができた。一方で、研究所の事情により実験室の移動を行う必要があったため、およそ半年程度を実験設備の移動と立ち上げに要した。そのため、上半期は研究時間が大幅に削られたため、ほとんど実験が進まなかった。 実験設備の移動と立ち上げでは実験そのものの進展については大きくブレーキをかけることとなったが、同時に周辺環境を整えることができ、これまで問題になっていた他の測定設備から生じるわずかな漏れ磁場を完全に廃することに成功し、振動や外来ノイズの影響も大幅に軽減することができた。これによって測定時間が大幅に減少し信頼性の高いデータも得られるようになった。また希釈冷凍機を改造し、回転機構を取り付けることでこれまでにできなかった3次元の全方向への磁場のコントロールができるようになり、また、高周波伝送ラインを増設することでシャピロステップといった超伝導接合の高周波応答を測定できるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度はゲートによる超伝導接合特性の制御についての研究を主に進める。(In,Fe)Asはキャリア誘起強磁性であり、ゲート操作キャリア濃度の制御によって磁性を制御することができるが(In,Fe)Asのドープ量は大きくゲート操作によって磁性を広い範囲で制御するのは難しい。そこで、導電性基板上に絶縁層を挟んで低ドープの(In,Fe)Asを薄く成長し、トップからはイオン液体、バックからは絶縁体を挟んでゲート電圧を印加することで、広い範囲でゲート操作を行う。イオン液体は種類によって粘性が大きく異なるだけでなく、反応性も大きく差があるので、基板に影響しないよういくつかの種類で試みる。超伝導近接効果にはスピン軌道相互作用が大きくかかわっており、その大きさによって、スピン一重項と三重項の混成量を変えられるため、ゲート電圧によってキャリア濃度を変えずにスピン軌道相互作用のみを変化させ、これによってジョセフソン効果の制御を試みる。 また、トポロジカル超伝導を発現しないかどうか実験的に調べる。トポロジカル超伝導においてはスピン軌道相互作用によって超伝導を壊さずに、磁性と共存させることが必要であるが、(In,Fe)Asは交換相互作用も大きくスピン軌道相互作用もかなり強いため次元性を制御できればトポロジカル超伝導の舞台となりうる。そこで一次元細線状に加工した試料に超伝導電極を蒸着し有限の臨界電流をもつ試料を作成し、シャピロステップからトポロジカル超伝導に特有の4π周期のジョセフソン効果の観測を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加する予定であった学会に予定が合わず参加しなかったため
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