研究課題/領域番号 |
17K05495
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
伊藤 孝寛 名古屋大学, シンクロトロン光研究センター, 准教授 (50370127)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 光物性 / トポロジカル物質 / 放射光 / 電子状態 / 光電子分光 / 吸収分光 |
研究実績の概要 |
本研究は、直線/円偏光マイクロフォーカスVUVSX放射光を活用して角度分解光電子分光 (ARPES) 測定および吸収分光 (XAS) 測定を行うための、偏光依存型VUVSX放射光イメージング分光システムを実現し、新規トポロジカル物質の電子状態におけるスピン/軌道/構造依存性を実験的に明らかにすることを目的としている。 初年度である本年度は、あいちシンクロトロン光センター (あいちSR) BL7Uにおける縦偏光放射光の利用の実現に向けた調整を行ってきた。偏光度の評価をグラファイトのC-K 吸収端におけるXASスペクトルの放射光入射角度依存性から見積もった結果、縦偏光配置において予測される入射角度に依存しないσ*軌道成分が支配的なXASスペクトルが得られることを見出した。さらに、横偏光と縦偏光の放射光スペクトルのアンジュレータギャップ依存性の比較から、縦偏光におけるアンジュレータギャップ値が計算予測と良い一致を示すことが確認された。 一方で、縦偏光を得る際の加速器の運転条件においてビーム不安定性などが問題となることが明らかになってきている。そのため、目標としていた円偏光を得るための加速器運転条件については、上記の不安定性の改善策の検討を行なった上ですすめていく方針を考えている。 上記の調整作業と並行して、層状MAX層化合物Cr2AlCにおける縦/横直線偏光ARPES測定をあいちSRとUVSOR-IIIの異なる偏光配置を利用することにより進めてきた。その結果、この系における電子状態の軌道対称性分離に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、分光法開発の観点であいちSRにおける縦偏光放射光の利用条件確認を行なった。その結果、縦偏光放射光の偏光条件が満たされていることが確認された。しかしながら、加速器運転条件の確認の結果、縦偏光においてビーム不安定性などの問題により他のビームラインへの影響が無視できないことが明らかになった。そのため、縦偏光放射光利用を実現する上で、さらなる調整が必要となっている。さらに、本年度後期にグレーティング交換機構の不具合から、低エネルギー用グレーティングが利用できない状況となり、次年度初頭の修理、分光器調整が予定されている。 一方で、MAX相層状化合物の電子状態研究については、他の放射光施設の利用研究などを並行して進めることで、偏光依存ARPES結果から軌道対称性分離した電子状態を3次元的に得ることに成功している。
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今後の研究の推進方策 |
あいちSRにおける偏光依存VUVSX放射光イメージング分光システムの実現に向けて、現在問題となっているビーム不安定性の影響を全アンジュレーターギャップ領域において解消する上ではマルチワイヤによる補償磁場の導入などが必要となることが予測されるため、特定の励起エネルギーに対するビームライン調整を優先的に行なっていく。具体的には、本年度は条件確認および分光系の故障により進めることが困難であった縦偏光放射光利用のための各種パラメータの取得をビーム不安定性が無視できる範囲内で優先的に行う。また、並行して円偏光測定条件についても利用可能範囲の見積もりを行う。 新規トポロジカル物質探索の観点からは、まず、層状MAX相化合物Cr2AlCに対して2次元性が強くなることが予測されるV2AlCおよびMX層-A層間相互作用が系統的に変化することが期待されるTi3AlC2における縦横偏光ARPES測定を2年次は優先的に行う。次に、円偏光測定条件を用いた遷移金属シリサイド系のARPES測定により、3次元的な電子状態とカイラル構造の関係に対する知見を得る。これらと並行して、あいちSRの結果との比較検討を目的として国内外の他の放射光施設における同一環境下での偏光依存ARPES測定をすすめる。
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