研究課題
平成29年度は3次元グラフェンの電気輸送特性を中心に研究を行った。越野と桐生(研究協力者)は3次元グラフェンの量子ホール効果の理論計算を行い、3次元にも関わらずホール伝導度が量子化すること、更にそれが曲面上に生ずる特殊な1次元チャネルによって引き起こされることを明らかにした(論文投稿準備中)。また越野と林は3次元グラフェン上に存在する7員環や8員環などの「トポロジカル欠陥」における電子状態をDirac方程式によって解析し、電子散乱効果を明らかにした。電子はほぼ曲面上の測地線に沿って進み、後方散乱が極めて小さく、電気抵抗に限定的な寄与しかもたらさないことがわかった。この結果は、トポロジカル欠陥が電気抵抗の主原因であるとする従来までの予想を覆すものである(論文投稿準備中)。また越野は伊藤(筑波大)、青木(産総研)らと共同で、3次元グラフェンの輸送現象の実験および理論解析の現時点でのレビュー論文を執筆した。越野と五十嵐(東北大)は、3次元ワイル半金属の物理の中で電気伝導とその磁場効果に注目し、トポロジカル表面状態がもたらす特異な現象を理論的に始めて明らかにした。ワイル半金属を記述する簡単な強束縛模型を用いて有限幅を持つ擬1次元細線を構成し、様々な方向の外部磁場の下での電気伝導度を計算した。その結果、磁場の方向によって電気伝導が全く異なる変化を見せることが明らかになった。特に磁場がトポロジカル表面状態を垂直に貫くとき、表面状態がバルク状態へと変性し、電気伝導度が劇的に減少するという新しい効果が見出された。
1: 当初の計画以上に進展している
初年度および2年度の計画に掲げたトポロジカル欠陥の散乱、および磁場中の電子状態・ホール効果がほぼ解明され、予想より早く進捗している。特に磁場中の1次元カイラルチャネルの発見は、周期系のみならずランダム曲面系に拡張する上で大きな鍵となると期待される。
実験で実現されている3次元多孔質グラフェンは曲面がランダムに接続した非周期系である。2年度以降は、現在までの周期系の計算から一歩進んで、ランダム曲面系に理論を展開していくことを目指す。特に、磁場中の電子状態は1次元カイラルチャネルのネットワークモデルとして捉えることができ、この手法を用いて電子状態および電気伝導度を解析することを計画する。
研究協力者(林、桐生)が最終的な研究結果が出るのが年度の終わりにかかり、会議で発表する機会を当初計画よりも減らしたため。現時点で結果が出ているので、次年度助成金と合わせて学会発表の旅費として使用する計画である。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 3件)
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