研究課題/領域番号 |
17K05497
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
浅野 建一 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (10379274)
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研究分担者 |
堀田 知佐 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (50372909)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | フレンケル励起子 / 揺動散逸定理 / サイクロトロン共鳴 / 高スピン・低スピンクロスオーバー |
研究実績の概要 |
鉄イオンを配位子場に持つ分子は、各々2、3重に縮退した eg, t2g 軌道を持ち,両軌道に5個の電子がスピンを揃えて入る高スピン状態と t2g のみに上下スピンが入る低スピン状態の間で、温度起因のクロスオーバを起こす。このとき、前者び状態を一種のフレンケル励起子とみなせる。このクロスオーバの機構を、古典系に単純化し、分子間の相互作用を弾性的に扱い、体積排除によるエンタルピー効果を考慮すると、両スピン状態間に両者を混合した状態が安定化することを示した。また、両スピン状態間の転移は、2つの異なる軌道を持つコバルト酸化物(例BiCoO3)でも研究されている。両スピン状態を S=1, 0 の状態とみなし、強相関極限の2軌道ハバードモデルで現れる磁気的相互作用を4次摂動で解析した結果、スピンネマティック相互作用の起源となる quadratic 相互作用が、Heisenberg 相互作用に匹敵しうる大きさになり得ることを示した。 古典系では線形応答関数が平衡状態における物理量の時間揺らぎの逆温度倍に等しい(揺動散逸定理)。実際、この定理は線形応答からゆらぎ(ノイズ)の情報を得るのに用いられている。最近、量子系で測定の反作用効果まで考慮した理論が構築され、散逸に関係しない成分に対して揺動散逸定理が成り立しなくなることが指摘されたが、具体的な定理の破れの大きさは明らかでなかった。我々は、振動数表示で見たとき、散逸に関係する成分では古典極限が再現される低振動数領域でも、散逸に関係しない成分は大きな定理の破れが現れることを定量的に示した。また、具体例として、二次元電子系のホール伝導度を解析し、実現可能な試料の移動度、および温度領域において揺動散逸定理の破れを観測できることを示した。また、光吸収スペクトル(サイクロトロン共鳴)の情報を使えば、正確なゆらぎの情報が得られることも分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
代表者の異動と重なったこともあり、時間がかかる本来の研究目標に十分なエフォートが割けず、むしろ副次的なものとして考えていた研究課題の方が先に進展してしまった。
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今後の研究の推進方策 |
29年度は、主軸として目指した研究課題について研究の進展が十分ではなかったので、30年度は代表者が開発した改良自己無撞着T 行列近似を、ナローギャップ半導体/低密度キャリアセミメタルへ応用する研究を本格的に進めていきたい。エキシトニックな効果とプラズモニックな効果を同等に扱えるような理論を構築し、①グローバル相 ,②バンド間光学 答,③バンド 光学 答(テラヘルツ分光による 起子 部遷移のスペクトル)のすべてを統一的に扱える完全な理論を完成させることを目指す。また、手法の有用性を確認するために、擬一次元および二次元エキシトニック系に適用し、申請者が過去に開発した改良自己無撞着T 行列近似から得られた結果との間にどのような差があるかも調べる。 また、フレンケル励起子の問題を考える舞台として、多軌道ハバード模型の研究を進める。特に、Frenkel 型エキシトン特徴のである双極子・双極子相互作用による長距離ホッピングの効果を取り入れた理論の構築に取り組みたい。それに必要な数値計算手法の整備にも取り組む。励起子凝縮相と他の秩序の共存の問題についても考えたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
数値計算サーバの購入を計画していたが、29年度の研究ではサーバの購入を要さなかったため。
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