研究課題/領域番号 |
17K05500
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
後藤 秀徳 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 准教授 (90322669)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | グラフェン / 電界効果 / 二次元層状物質 / バンド制御 / イオン液体 / 電子移動 / 自己組織化単分子膜 / 分子吸着 |
研究実績の概要 |
電界が電子物性に与える効果の実験的研究は、磁界の効果と比べて十分進んでいるとは言えない。その一因は金属や半導体中には電界が遮蔽され侵入できないためである。2次元層状物質であれば、その厚さを遮蔽長よりも薄くすることで垂直電界が電子物性に与える影響を調べることができる。本研究の目的は、垂直電界による2次元層状物質の新規物性の探索である。 最初の段階として、強電界を効果的に印加する方法を検討した。垂直電界を生成する方法として、層状物質を絶縁体ではさみ、その上下層から正負のゲート電圧を加える方法が広く行われている。本研究ではさらに大きな電界を加えることを目指して、層状物質の上下層からの電子移動を利用する方法を試みた。例えば、下層から電子を与え上層から電子を奪うと、下から上向きの電界が実効的に加わると期待される。用いた層状物質は2層グラフェンである。ゼロギャップ半導体である2層グラフェンは、垂直電界下でその大きさに応じたバンドギャップを開く。電気伝導度の温度依存性を測定し、バンドギャップの生成すなわち垂直電場の生成の有無を調べた。 電子供与性の自己組織化単分子膜の上に2層グラフェンを置き、さらにその上に電子受容性分子を吸着させた。上層への分子吸着前後における電気伝導度の温度依存性を比較しバンドギャップの生成を定量的に評価した。その結果、バンドギャップができる試料とできない試料とが存在することを確認した。これらの試料の相違を詳細に調べ、垂直電界が有効に作られるためには2種類の分子が2層グラフェンの上下で整列する必要があることを明らかにした。2種類の分子が乱雑に配列した場合に垂直電界が生成されないのは、2層グラフェンの層内の電界遮蔽長が分子間隔よりも短いためである。本研究結果はオープンアクセス誌のSci. Rep.に出版された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の期待に反して、分子吸着による電子移動による方法では必ずしも電界が生成されないことを見出した。層状物質に対して一様な垂直電場を印加するためには、層に垂直方向の電界遮蔽長が層状物質の厚さよりも大きいことは当然として、層に平行な電界遮蔽長も吸着分子の間隔と比べ十分大きい必要があることがわかった。この結果は、吸着分子の位置を正確に制御することによって強電界の生成が可能であること示唆している。電子移動分子を微小ゲートとして利用する機能性デバイスの開発や分子エレクトロニクスへの展開につながることが期待されるとともに、究極的に微小なデバイスを作製する場合にその性能を制限する要因を見出した。 また本研究結果は、電気伝導を担うキャリア数を変化させる2つの方法の相違を明らかにした点においても意義がある。これまで半導体や超伝導体におけるキャリア数を制御する方法として、不純物原子の置換や挿入によって価電子数を変化させるドーピングの方法と、電界効果トランジスタ構造でゲート電圧を印加する電界効果を利用する方法とが広く用いられてきた。本研究により、ドーピングによる方法では、電界遮蔽長程度のスケールで静電ポテンシャルが不均一になり、この影響を除くためには、電界効果を用いる方が有利であることが明らかになった。このように、微視的な視点から電界生成の条件を与え、その問題点と可能性を明らかにしたという点で、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度も層状物質に強電界を加えるために、(i) 電子移動と、(ii) 電界効果を用いる方法、(iii)それらを組み合わせた方法を並行して試みる。 (i) 電子移動を用いる方法では、分子の吸着位置を制御するために低温における分子吸着の方法を試みる。分子の熱揺らぎが抑制され、電子供与性分子と受容性分子がクーロン引力によって層状物質を介して垂直に整列し、強電界が生成することが期待される。 (ii) 電界効果を用いる方法では、従来固体の誘電体を用いて作製されてきたダブルゲート構造を、イオン液体が作る電気二重層ゲートに変更して強電界の印加を試みる。このためには、層状物質を宙吊りにする構造を作製した後、これをイオン液体に浸しその上下からイオン液体を介してゲート電圧を加える。イオン液体による表面張力によって試料が破壊されない様に、強固な試料構造を作る。 (iii) さらに、上記2つの方法を組み合わせた電界印加を行う。例えば、電子供与性自己組織化単分子膜上に層状物質を置き、その上からイオン液体を滴下し負のゲート電圧を加えることで強電界を生成させる。 以上の方法を2層グラフェンに適用し、加えられる最大電界の大きさを評価するとともに、他の層状物質への電界印加を試み、新規物性の発現の可能性を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
少額の残余が生じたが、年度内に少額物品を購入するよりも、次年度の物品購入費に追加する方が研究に有効活用できると考えたため。 試料作製のための消耗品を購入する計画である。
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備考 |
International Symposium on JST ACT-C Project (2017/7/28, Okayama Univ., Okayama)におけるポスター発表2件
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