金属や半導体内には電界が侵入できないため、電界が電子物性に与える効果は、磁場の効果と比べ十分に研究されているとは言えない。本研究の目的は、電界が侵入できる長さ(電界遮蔽長)よりも十分薄い二次元層状物質(2DM)に対して垂直電界を加え、電子物性に与える効果を調べることである。電界を加える方法として、絶縁体を介して2DMに電圧を加える電界効果の方法と、電子受容性・供与性分子を2DMに付着させる電子移動の方法がある。これらの方法を用いて、新たな物性探索を行った。 最終年度の成果は以下の3つである。(1)電子供与性の自己組織化単分子膜上に2層グラフェンをおき、その上からイオン液体による電気二重層(ELD)ゲートを用いて、印加できる電界の増強を試みた。2層グラフェンは加えた電界に応じたバンドギャップを開くため、生成される電界強度を評価するのに最適である。その結果、電子供与性分子が付加的な電界を与えること、EDLによって効果的に電界が加えられることを明らかにした。(2)電子移動の方法では、イオン化した分子が荷電不純物となり移動度を低下させることが問題であったが、様々な電子受容性分子を単層グラフェンに吸着させることにより、移動度を低下させない分子の特徴を見出した。(3)低温において半導体・金属転移を示す不純物ドープトポロジカル絶縁体の電界効果を調べ、電界の向きによって移動度が異なることと特異な転移現象を関連づけた。 全体を通じた研究実績として、上記2種の電界を生成する方法を組み合わせることにより、明らかになった欠点を解決する方法を提案した。研究過程で、トポロジカル物質の電界下での興味深い性質が見出されたため、さらに強い電界をかけたときの電子状態を解明する予定である。今後、本研究成果が2DMの新たな物性と機能の発現に応用されることが期待される。
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