研究課題
本研究では、強相関電子系物質ナノ結晶を化学的な手法で合成し、金属絶縁体転移のナノサイズ効果の解明と、その応用可能性を探ることを目的としている。平成30年度は、昨年度に続いて結晶サイズが20nm程度のV2O3ナノ結晶におけるTiドーピング効果の研究を行った。バルクではTiドーピングが金属相の安定化を導くが、ナノ結晶ではTiドーピングによって絶縁体相が導かれることを示した。ナノ結晶の構造、磁性、電子状態の測定から、ナノ結晶では元々電子相関が大きくなっており、ここにTiが加わってフェルミ準位近くの2つのバンドのエネルギー的な重なりが増大したことが、絶縁体相が安定となる理由であると結論した。また、V2O3ナノ結晶の研究を進める過程で、バルクでは見られないBixbyite構造ナノ結晶が合成された。現在は、その基本的な性質を調べている段階である。光電子分光からは絶縁体であることを示すスペクトルが観測された。一方、ナノ結晶の関連研究を2つ行った。一つは、遷移金属ドープZnOナノ結晶の室温強磁性の研究である。酸素1sを励起した軟X線吸収分光から遷移金属が形成する非占有電子状態を観測し、その電子状態が強磁性が出現するサンプルでは伝導帯の底に位置することを示した。ここから、その強磁性がキャリア誘起強磁性モデルに従って発現していることを結論した。もう一つは、NiCo合金ナノ結晶の研究である。バルクではfcc構造が安定となるが、ナノ結晶では原子間距離が大きくなってhcp構造がCo量40%程度まで安定となることを示した。
2: おおむね順調に進展している
20nm程度のV2O3ナノ結晶の合成方法は確立し、その構造、磁性、電子状態を用いて相転移を調べる手法も確立している。最終目標であるサブ10nmサイズのナノ結晶の相転移を研究する準備は整ったと考えている。
最終年度は、サブ10nmサイズのV2O3ナノ結晶の金属絶縁体転移を調べ、サイズの低下がその相転移にポジティブな変化を与えるかを明らかにしたい。さらにサイズの低下によって、金属絶縁体転移、反強磁性転移、構造相転移が同時に起き続けるのか、または別々に起き出すのかについても明らかにしたい。NiSナノ結晶についても同様の研究を進める。さらに Bixbyite構造のV2O3ナノ結晶の物性を明らかにする。
僅かな金額が残って適当な使途がなかったため次年度使用に回す方がよいと判断した。次年度は薬品などの消耗品の購入に使用する。
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