研究課題
強相関電子系物質では、電子間の相互作用と電子格子の相互作用の働きにより、温度、圧力、不純物量の変化に対して多彩な秩序相が現れるが、そのサイズに対する影響は明らかになっていない。一方、化学においてはナノメートルサイズの結晶の溶液合成技術が進展し、1ナノメートル単位のサイズ制御が可能になっている。本研究では、化学的な溶液合成法を強相関電子系物質に適用し、ナノサイズの結晶における金属絶縁体転移の基本特性の解明、さらには応用可能性を探ることを目的に研究を行った。酸化バナジウムV2O3ナノ結晶を対象とし、そのサイズを20 nm程度に固定して、Tiドーピング量依存性を調べた。バルクではTiドーピングが金属相の安定化を導くが、ナノ結晶ではTiの高ドーピングによって反対に絶縁体相が導かれることが示された。結晶サイズの低下によって電子間相互作用Uが増大したこと、さらには、コランダム構造のc軸を縮めるように巨大な構造変化が起きたこと(そして、電子格子相互作用によって格子系の変化が電子系に伝えられたこと)が絶縁体相の生じた原因と考えている。本研究で発見されたTiドープV2O3ナノ結晶におけるUの増大と巨大な構造変化の発生は、他の物質系においても該当する普遍的な特性であると考えられるため、強相関電子系物質の相図におけるサイズ軸の重要性を示すことができたと考えている。関連研究として、Niメタルナノ結晶についても調べた。Niナノ結晶では、バルクのfcc構造と異なりhcp構造が出現するが、ここでも1原子あたりの単位格子体積が20%以上も膨張するという巨大な構造変化が相変化の原因となっていることを明らかにした。この体積膨張によって3d軌道から4sと4p軌道に電子が流れ込み、結果としてhcp構造のバンドエネルギーが最低となることが分かった。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (5件)
Physical Review B
巻: 101 ページ: 035415/1-7
10.1103/PhysRevB.101.035415