研究課題/領域番号 |
17K05502
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
齋藤 智彦 東京理科大学, 理学部第一部応用物理学科, 教授 (30311129)
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研究分担者 |
小林 義彦 東京医科大学, 医学部, 講師 (60293122)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | コバルト酸化物 / スピンクロスオーバー / 電子構造 / 光電子分光 / コンプトン散乱 / 低スピン / 高スピン |
研究実績の概要 |
本年度は、RCoO3(R=希土類)の電子構造を中心に研究展開をし、以下のような研究実績を得た。 (1) 硬X線光電子分光(HAXPES)測定による電子構造研究: 昨年度は最低温度(10 K)までの温度変化測定に成功したので、今年度はさらに情報量を増やすために、Co 2p内殻の詳細な温度変化測定、および硬X線領域で顕著になる、価電子帯の入射光偏光-光電子放出角依存性実験(通称偏光依存実験)を行った。この測定は研究計画通りであり、測定の結果、どちらのスペクトルも低スピンと高スピンの重ね合わせでは再現できないことを見出した。
(2) コンプトン散乱を用いた電子運動量密度測定の論文執筆: 一昨年度測定に成功した、コンプトン散乱実験の結果を論文にまとめた。内容は以下の通り:(2a) LaCoO3の100 Kスピンクロスオーバーによるeg-t2g間電子移動が、500Kスピン転移においてさらに生じていること、Co(3d)軌道状態がO(2p)と混成した分子軌道の特徴を持つこと、を明らかにした。(2b) 100 K-スピン転移を生じず、500K転移までそのCo3+が低スピン状態を維持するとされているPrCoO3のコンプトンプロファイルの温度依存性を5-300 Kの範囲で測定し、温度上昇に伴うPr-4f電子状態変化を示唆する結果を得た。
(3) スピン状態が類似している酸化物の電子構造: 昨年度に引き続き、関連する「多量体を組んでスピンシングレット(=低スピン)となるV酸化物」についても、比較測定を実施し、論文執筆を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度、LaCoO3の100 Kのスピンクロスオーバーに伴う電子構造変化を測定するために試料準備を工夫し、室温~10 KのHAXPES測定を世界に先駆けて成功した。今年度はこの変化をより詳細に理解するために、Co 2p内殻の詳細な温度変化測定、および硬X線領域で顕著になる、価電子帯の入射光偏光-光電子放出角依存性実験(通称偏光依存実験)を行った。この測定は研究計画通りであり、測定の結果、どちらのスペクトルも低スピンと高スピンの重ね合わせでは再現できないことを見出した。 また、一昨年度測定に成功した、コンプトン散乱による500 Kのスピンクロスオーバーについては、結果をまとめて論文にまとめた。
以上の結果から、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の光電子分光測定については、室温で低スピン状態にあるとされているR=Pr, Ndの室温以下の温度変化測定を実施し、これを確認する。またLaCoO3については、昨年度に低スピンと高スピンの重ね合わせでは再現できないことが示唆されたため、理論グループと協力してCo 2p内殻スペクトルのDMFTクラスターモデル計算のシミュレーションと比較し、中間スピンやそれ以外の状態の検討を行う。さらに第一原理バンド構造計算も実施し、この温度変化について包括的な理解を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本金額は、SPring-8の有償ビームタイムほぼ3シフト(=1日)分である。本年度は一般ビームタイムが予想より多く採択された。そこで次年度での実験遂行をより確実なものとするために、有償ビームタイム1日分を次年度に繰り越した。次年度はこの予算により確実に実験を遂行できる予定である。
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