研究課題/領域番号 |
17K05504
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
市田 正夫 甲南大学, 理工学部, 教授 (30260590)
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研究分担者 |
青木 珠緒 (松本珠緒) 甲南大学, 理工学部, 教授 (80283034)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ナノカーボン / 酸化グラフェン / 光照射効果 / 非線形光学応答 |
研究実績の概要 |
我々は、以前から、単層カーボンナノチューブなどのナノカーボン系において、ポンプ・プローブ法やZ-Scan法を用いて、非線形光学応答を調べているが、酸化グラフェンのように、光照射によって光学スペクトルに変化が起こる試料では、これらの方法では、正しく評価することが難しいことが分かってきた。そのため、昨年より、測定のためのレーザー光が試料上で焦点を結ばないように配置に注意し、励起光強度を変化させながら吸収係数を測定し、その飽和密度(Is)から非線形感受率を求める方法に変えた。精度よく測定を行うため、非線形感受率が再現性よく測定できている単層カーボンナノチューブ試料を参照資料として、それとの相対測定によって、信頼度の高い非線形感受率を得ることを行った。また、酸化グラフェンの非線形性の光照射による影響とその起源を調べるために、光照射前後の光学スペクトルや発光の時間変化を測定した。 その結果、1) 酸化グラフェンの3次非線形感受率の虚部は負の値を持ち、吸収飽和が起こっていること、2) 3次非線形感受率を吸収係数で割った性能指数は、低エネルギー側ほど大きくなっていくこと、3) 光照射によって3次非線形感受率は大きくなるが、性能指数は減少すること、4) 低エネルギー側ほど発光寿命が長くなること、5) 光照射により発光寿命は短くなり発光強度も減少すること、6)性能指数のエネルギー依存性や光照射効果は、寿命の変化によって定性的に説明できること、が明らかになった。 酸化グラフェン試料では試料中にグラフェン領域が量子ディスク状になっていると考えられているが、ディスクサイズが大きいほど性能指数は大きくなっているが、光照射による還元によってグラフェン領域も大きくなっており、これは、エネルギー依存性から得られた結果と矛盾している。光照射によって欠陥生成など、新たな緩和が発生していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度、報告したように、実験で用いていたレーザー装置が故障のため、研究が遅れていたが、レーザー装置がアメリカ製で、国内のサポート体制も十分でなかったことに加え、コロナ禍の影響を強く受けて、依然として修理がおこなえていない。そのため、現有のレーザーを用いた、発光寿命測定などを行っているが、非線形光学応答の研究は遅れている。前年に引き続き、1年の研究機関の延長をお願いした。
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今後の研究の推進方策 |
現在、国内業者の協力のもと、レーザーの修理の準備を行っている。修理が完了次第、酸化グラフェンおよび光照射酸化グラフェンについて、発光寿命測定を行い、その結果を三次光学非線形感受率や性能指数と比較することにより、三次非線形性の光子エネルギー依存性や光照射効果について、その原因を考察するとともに、2次元系のグラフェンや1次元系のカーボンナノチューブなど他のナノカーボン系との比較を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により国内外の学会出張を行うことができなかった。 また、レーザーの修理もコロナ禍により行うことができなかった。
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