研究実績の概要 |
<超高効率超高速発光計測システムの開発> アップコンバージョン法(和周波ゲート)を用いた時間分解発光分光法は、高い時間分解能と赤外での高い感度を有する強力な手法である。本研究では、この手法の高感度化と高機能化を図り、超高速発光スペクトロメータとして完成させた。1号機では、バンドパスフィルター自動切換え式高透過率分光器を開発し、非線形光学結晶との同期駆動を行うことで、感度を4~10倍向上させるとともに、0.25~1.1eVの広帯域で時間分解スペクトルを迅速に測定できるようにした。さらにAPD(アバランシェ・フォトダイオード)の採用によって2~3倍高感度化した2号機を完成させた。この装置は30cm×30cmと、超高速分光光学系としては極めて小型であり、長期間安定に動作する。据え付け後の光学系調整がほとんど不要な可搬型となっているので、商品化も可能な水準に達している。 <応用展開> この装置を利用して、金属の超高速発光の研究を開始した。貴金属(Au、Ag、Cu)の可視発光スペクトルは知られていたが、フェムト秒時間分解測定は、本研究が初めてである。表面粗さをもつAuで半導体と同程度の瞬時強度の赤外発光を見出した。時間分解発光の振舞いを理解するために、半現象論的なモデルを提案し、非熱化電子と熱的電子の緩和過程が、発光のダイナミクスに現れていることを明らかにした。さらに、Pt, Pd, Ni, Ti, Alなどの金属でも超高速発光を見出し、超高速発光が金属の普遍的な特性であることを示した。様々な表面粗さを持つAgにおいて赤外吸収スペクトルと発光の比較を行った結果、発光強度は吸収強度の2乗に近い依存性を持つことから、発光増強の効果は、吸収率と放射率の増大に起因すると結論された。また外部で観測される発光スペクトルを放射率スペクトルで規格化することにより、内部的な発光スペクトルを求められることを示した。以上により金属発光研究の基礎を固めた。
|