研究課題/領域番号 |
17K05506
|
研究機関 | 公益財団法人豊田理化学研究所 |
研究代表者 |
黒田 新一 公益財団法人豊田理化学研究所, フェロー事業部門, フェロー (20291403)
|
研究分担者 |
伊東 裕 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (10260374)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 電界ドーピング / 有機半導体 / 電子スピン共鳴 / 電荷キャリア / スピン状態 |
研究実績の概要 |
有機FET構造による電界注入キャリアを主な対象として、ESRによるミクロ観測とマクロな伝導特性の研究を相補的に進めている。今年度は、チエノチオフェン系低分子および結晶性高分子の基本物質であるポリチオフェンのESR研究を行い、一方、伝導特性では、チエノチオフェン系高移動度高分子であるPBTTTのイオン液体FETを対象として、以下の成果を得た。 1.アルキル鎖を有するチエノチオフェン系高移動度分子として、昨年度は代表的な分子であるC10-DNTTのキャリア波導関数の空間広がりをESR信号から見積もった。今回、もう一つの代表的な分子C8-BTBTに対して、低温における不均一線幅の大きさを、ヨウ素ドープした薄膜の低温ESRから直接見積もることに成功し、溶液ESRから求めた一分子の超微細線幅との比較から、波動関数の広がりが100分子に達することを示した。一方、ポリチオフェンの電場誘起ESRでは、SiO2固体絶縁膜を使用したデバイスを作製し、SiO2表面の自己組織化単分子膜による化学処理の影響について、伝導特性におけるキャリア移動度の向上が、ESR信号でも運動による線幅の先鋭化として観測できることを示した。 2.チエノチオフェン系高分子PBTTTのイオン液体FETによる高濃度キャリアドープを行い、直流伝導度の温度依存性および磁気抵抗効果を測定した。高ドープ下では100K以上で電気伝導度が低温で増大する金属的伝導を見出した。磁気抵抗の符号が、低濃度ドープ下での可変領域ホッピング領域では正、弱局在領域では負、高濃度ドープ下での金属伝導領域では正というように、電気伝導の温度変化に対応した変化を示すことを見出した。並行して、フローコート法による主鎖配向制御に取り組み、二色比が11と良好な配向膜を作製することに成功した。室温での電気伝導度は主鎖配向方向で2~3倍に増大することが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
チエノチオフェン系の低分子および、高分子系材料のESRと伝導特性の比較をすすめ、チエノチオフェン系高移動度分子C8-BTBTでは、前年度に明らかにしたC10-DNTT系と同様に、100分子に及ぶ波動関数の広がりを明らかにし、バンド伝導を支持する結果を得ている。またペンタセンと比較した場合、波動関数の広がりはより大きく、チエノチオフェン系の高い結晶性と符合する。これらの結果に対して、国際会議で招待講演や口頭講演を行っている。一方、チエノチオフェン系高分子PBTTTでは、電気抵抗、磁気抵抗の測定結果とこれまでのESR測定によるミクロな知見とを対比させることにより金属絶縁体転移の全容が解明されつつある。また、配向膜の作成により室温での伝導度の向上に成功したことで、さらに低温までの金属伝導の発現を目指す準備が整った。
|
今後の研究の推進方策 |
低分子系のESRでは、チエノチオフェン系分子の波動関数について、アルキル鎖のないDNTTの検討もすすめ、分子構造やアルキル鎖の影響を系統的に調べる。また、これまで薄膜作製では蒸着法を主に用いてきたが、アルキル鎖をもつ分子種については溶液法による作製も行い伝導特性と局所構造や電子状態との相関を調べる。高分子系のESRでは、P3HTの固体絶縁膜を用いたESRで、界面の化学修飾効果をさらに調べると共に、ポーラロンからバイポーラロンへの転換について温度効果から検討する。 伝導特性の面では、チエノチオフェン系高分子PBTTTのイオン液体FETについて、主鎖配向制御によりさらに低温までの金属伝導の発現を目指すとともに、ホール係数の測定によりキャリア密度を明らかにする。電気伝導特性における異方性は、結晶領域とアモルファス領域からなる膜のモルフォロジーにも関わると考えられることから、今後さらなる研究を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度は、前年度の繰越金を使って購入した消耗品材料を用いて実験を行うことができたため、次年度に一部繰り越した。令和元年度は、新しい材料の購入と、蒸着材料等の新規基板材料が必要になるため、高分子材料、基板材料費が必要になる。
|