研究課題/領域番号 |
17K05509
|
研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
岩野 薫 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 研究機関講師 (10211765)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 光誘起相転移 / 2次元電荷秩序 / 分子性結晶 |
研究実績の概要 |
本計画で主として扱っている2次元スピンレスレスフェルミオンモデルには、最近距離の相互作用に限った場合、水平・垂直方向のクーロン斥力(V)と右上斜め方向のクーロン斥力(V')の2種類の相互作用が存在する。これまでは、V>V' の場合を扱ってきたが、本年度は、V<V' の場合まで探索を広げた。現実物質(分子性結晶)ではこちらの場合に該当すると思われる物質も存在するため、その意味でもこの拡張は意義がある。その結果、まず、基底状態に単純な電荷秩序状態以外の秩序相が準安定として存在することが分かった。この秩序相は、既知の複数の秩序相(具体的には、ホリゾンタルストライプ相とダイアゴナルストライプ相)がミクロに組み合わさった性質を有し、我々はハイブリッド状態と名付けた。準安定であることは8×4の格子サイズで確かめたが、既知の秩序相と比べてそのエネルギーはやや高いが、その差は現実的なパラメターで評価すると数ケルビン程度と非常に小さい。ハイブリッド相は絶対零度では準安定だが、有限温度ではエントロピー効果で安定相になる可能性があり、非常に興味深い。
次に、V<V'の場合の光励起状態の性質も調べた。特に今回はダイアゴナル相が安定になるように次近接のクーロン斥力を与えてその光学スペクトルを求め、同時に励起エネルギーごとの状態の電子励起数を評価した。その結果、予想以上に電子励起数が多く、例えば、多いところでは6程度になる。これは付加的な次近接相互作用によってダイアゴナル相を安定化させても、光励起状態では上述のハイブリッド相的な不安定性が発現するためと考えられる。より詳細な解析は現在進行中だが、少なくとも元々のダイアゴナル秩序由来の電荷空間相間は大幅に減少するなどの特徴が明確になっている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に開発に着手した運動量依存のスペクトル計算のプログラムをほぼ完成し、またプロダクションジョブを大量に行えたので、予定通りと言える。また、サイト間のクーロン斥力も次近接に拡張し、これも計画通りである。またさらには、V<V'の領域で電子励起数が今まで以上に大きくなる場合を新たに見つけたので、これも計画で期待していたことと言える。特に今回は、ダイアゴナル相の基底状態を始状態とするスペクトルを新たに計算したが、ダイアゴナル相自体に対応する全運動量が特定のものに限定されるため、その意味でも運動量分解を事前に行ったことは結果の考察において極めて有意義であった。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでは始状態の運動量(=全運動量)に着目して運動量分解を行い、その場合、励起状態の運動量は基底状態と同じ、つまり移送運動量(momentum trasfer)はゼロであることを仮定していた。非弾性X線散乱を想定した場合、移送運動量がゼロでない場合も今後興味深いので、プログラムをさらに改変し、移送運動量が非ゼロの場合も扱っていきたい。またさらに、当初の計画に基づき、得られた計算結果から有効モデルを構築すること合わせて考えていきたい。そして、最終的にはそのような有効モデルにフォノン散乱の効果を取り入れ、ドメイン成長に対してインコヒーレンス性の与える効果について考察していきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
国内実験グループ訪問のための旅費を申請したが、先方の都合のために訪問が出来なかった。次年度に改めて日程調整を行い使用したい。
|